大丁の小噺

大丁です。読み方はタイテイが標準です。※大丁は、株式会社トミーウォーカーのPBWでマスター業務を行っています。ここで関連する告知を行うことはありますが、マスター契約時の規約により、ゲームに関するお問い合わせは受け付けられません。ご了承ください。

全文掲載『ファブリークと魔女の牢屋』

ファブリークと魔女の牢屋(作者 大丁)

 

 囚人たちは、いずれも若い女性だった。
 着衣は古びてしわくちゃだったが、牢に入れられるより前、もとから着ていたものらしかった。
 帝国の貧民街から、集められたばかりなのである。
 四方の壁は石造りと、一方だけが鉄格子。そして、高い位置にあるひとつだけの小さな窓には、やはり鉄の棒がはまっていて、その外は樹木の重なりに景色が遮られている。
 もしかしたら、深い森の中に建っているのかもしれない。
 通路の暗がりから、引っ掻くような足音が聞こえてきた。捕らわれの女性たちは、小さく呻いて、窓のある側の壁に身を寄せた。
 はたして、鉄格子から覗いた顔は、ほとんど機械に置き換わったサイボーグであった。
「さて、次はどの娘を改造すりゅかなあ?」
 声は甲高く、金属製とはいえ胸の膨らみもある。
 ここ、ゾルダート秘密工場の女工場長であった。
「そんなに怖がりゅな。私のドリリュで脳まで改造すれば、意思など無くなりゅ」
 両手の回転切削機は、手術道具というわけだ。
「女らしい体型は、ちゃあんと残しておいてやりゅ。ほっほっほっ」

 プラットホームでは、機械化ドイツ帝国行きの列車が出発を待っていた。
 すでにロングシートに腰かけているディアボロスたちのもとへ、時先案内人が訪れる。
ごきげんよう。わたくしは、ファビエヌ・ラボー(サキュバス人形遣い・g03369)と申します。この列車の向かう先は、お伝えしたとおりですわ」
 頷きあう、ディアボロス。
「さっそくですが、事件の概要をご説明いたしますね。帝国内の都市にある貧民街から、若い女性ばかりがさらわれ、下級のゾルダートに改造されているようですわ」
 さらわれた貧民の女性たちは、脳を改造され、クロノヴェーダの命令に忠実に従う兵士に作り替えられている。
 この改造手術は、非合法に行われているようで、貧民街のならず者などに拉致させた人間を、秘密工場に集めて、工場長であるクロノヴェーダ自らが機械化手術を行っているらしい。
「皆様には、この秘密工場に捕らえられている女性たちを救出し、機械化手術を行っているクロノヴェーダの撃破を行っていただきたいのです」
 ファビエヌは、そっと自らの身体を抱いた。
 彼女も若い女性だ。被害者に共感しているのは想像に難くない。
「秘密工場の場所は不明です。ならず者が貧民を誘拐している地域は特定できているので、囮としてうまく誘拐されることができれば、秘密工場の場所を突き止められるでしょう」
 あるいは、囮役の身を案じたのかもしれなかった。
「施設の長であるクロノヴェーダを撃破すると、秘密工場は爆発して破壊されるので、囚われている人を事前に避難させるか、あるいは、自力で脱出できる手はずを整えておくと良いでしょう」

 施設内には、この工場で生産された下級のゾルダート、『シュプールフート・クリーガー』が複数存在する。
 牢の見張りや施設の巡回を行っているので、その対処も必要だという。
「工場長は、『トルナード・ヘクセ』というアヴァタール級ですわ。撃破後、施設の爆発まではほとんど時間がございません。女性たちの解放については、くれぐれも事前準備をお願いいたします」

 案内人は、にこやかな表情にもどった。
「機械化ドイツ帝国は、ドイツ国民に対しては正当な政府であるように装っておりますが、裏ではこのような非道を働いております。皆様ならば、ワルイコトを咎めていただけると信じていますわ」

 レンガの壁が、傾いて見えるうらぶれた通りを、ならず者の集団が闊歩していた。
 いずれも目深にかぶったハンチング帽子から、道行く人を物色している。
「この貧民街も、そろそろ品切れかねぇ」
若い女ばかりさらってこいなんて、贅沢言ってくれるぜ」
「しかも、おすそわけもないんだモンなあ」
 文句を言いながらも、仕事をこなさねばならない。
 秘密工場の魔女の牢屋を、いっぱいにしておくという仕事を。

 通りをうろつく、ならず者たちだけでなく、ゴミの散乱する建物の合間でも、無堂・理央(人間のカースブレイド・g00846)が同じ疑問を呈していた。
若い女性だけ狙いってなに? そういう人だけ改造したいのかな」
 用意したボロボロの服に汚しをいれる。
「まっ、これ以上、街の人たちを改造させるつもりは無いけどさ!」
 囮となってさらわれる、準備をしているのだ。
 現代風のコンパクトをそっと取り出し、ミラーに自分の顔を映して。
「頬がこけてるようなメイクとかもした方が、らしく見えるかな?」
 ゴミくずの中から帽子もひとつ拝借した。
 道端にそれを裏返しに置いて、うずくまる。
 理央の、いかにも弱ってますな空気に、ならず者たちが引っ掛かるまで、いくらもかからなかった。
 しかし、連中はうかつに近寄らない。
「人様から恵んでもらおうって、ありゃあオレたちの同業者じゃないですかい?」
「うっかりプロをさらったら、後々めんどうだ」
「いや、よく見ろ。あんな帽子の置き方じゃあ、務まらねぇ。シロートさ」
 ならず者たちは理央をぐるっと囲むと、なんくせをつけ、建物の合間に押し込んでから、麻袋をひっ被せた。
 弱々しい抵抗に、してやったりの誘拐犯。
 もちろん、麻袋の中の理央とて、また同じだった。
 密かにほくそ笑む。
 それを運び役に預けた者どもは、ハンチング帽子をかぶり直し、再び通りに出る。
 今度は、家出少女とおぼしき人影が見つかった。
 年齢は……よく判らないが、若いだろう、たぶん。
「今日はツイてるぜ」
 99歳のメルセデス・タナハ(アルビオンの妖狐・g03008)の演技にすっかり騙されている。
 着の身着のままといった様子。
 不安そうな表情、行く当てが無さそうな感じ、のすべてに。
「ねぇキミ、お腹へってるんじゃないの~」
 気さくに話しかけるならず者たちも、プロの演技を気取るならば、メルセデスも師匠にやらされた扮装とか腹芸とかを思い返す。
「あーれー、ご無体なー」
 肩を抱かれて、嫌悪のそぶり。
(「弟子だからって散々パシらされた。旅先で路銀を稼いだりするために、情報を引き出せだの同情を誘えだのとお師匠様にやらされた……」)
 早々に、麻袋へ直行。
 運び役は、中から聞こえる嗚咽が、感謝からとは思うまい。
(「人食いの魔物を誘き寄せる為に生贄の役になれと言われたこともあったっけ……あなたのパシリが今日活きてます、お師匠様……」)
 秘密工場へと理央とメルセデス、ふたつの麻袋が担がれていく。
 誘拐犯のリーダーは豊作に気を良くして、もっと若い女性が捕まらないかと、数人を貧民街に残した。
 特に、大男を選んで。

 森は、深いうえに、暗い。
 一筋だけ遺されていた小道は、ごく僅かな開けた場所に通じていた。
 そこに石造りの洋館が建っている。
 昔の貴族が、狩りのための別荘にでもしていたのだろうか。
 内方・はじめ(望郷の反逆者・g00276)は、大木の陰に隠れ、人さらいが麻袋に入った理央たちを、建物内に運び込むのを確かめた。
「秘密の館まで、案内してもらえたわ」
「尾行は、わたしたちレジスタンス諜報員の得意分野だよ~……ねむいけど……」
 久寝・凪(惰眠を貪るリベンジャー・g03012)は、あくびをしながら小道のほうを警戒している。
 囮役のメルセデスの遺していった光学迷彩で一味の後ろにつき、貧民街を出るまではモブオーラも役にたった。
 しかし、玄関口の両脇には、トループス級が警備についている。
 下半身が戦車となった『シュプールフート・クリーガー』だが、上半身は軍服で、胸部が膨らんで見える。
 ポケットに何か詰めてるわけではなさそうだ。
 凪も、はじめの肩越しにそれを眺める。
「人間を改造して兵士にする……のは分かるとしても……? まあいいか……どうせろくな理由じゃないし」
 洋館がゾルダート秘密工場に転用されているのは明白となったが、どう潜入するか。
「見張りや巡回が、全員クロノヴェーダってことはないと思ったんだけどね」
 友達催眠とはいかなくなった。
 もう一度、小道の方向に目をやると、背の高い人影がこっちに来るのを、凪は暗い茂みの中に見つける。
 はじめの背中をつついて呼び、そのあいだに人影はハンチング帽を脱いだ。
「我だ。街に残っていたならず者から奪った」
 出てきたのは、バースィル・アシュラフ(焔陽の獅子王・g02196)の黒い顔である。
 彼も、大木の陰から洋館を覗き、帽子をまた目深にかぶった。
「では我が、ならず者の仲間に扮して侵入しようぞ」
「牢屋は右翼の端じゃないかしら」
 じっと建物を観察していた、はじめは鉄棒つきの窓の位置を看破していた。
 巡回のタイミングも計っている。
 バースィルの長身は、玄関口の警備をパスし、まんまと通路の先、鉄格子までたどり着く。
「……さて。待たせたな。我が民よ。おっと、声は出してくれるなよ」
 『獅子王の威光』があたると、錠前は簡単に焼き切れる。
 扉を開け、自らも牢の内に入ると、窓の鉄棒を掴んだ。案の定、わざわざはまっていただけあって、窓は人ひとりくらい通れる。
 囮の理央が用意していた腐食の霧で、棒を引き抜くと、外に合図した。
 着々と脱獄が進行しているのを、女たちは茫然と見ている。
「触れられるのも嫌かもしれぬが、一時の事ゆえ、我慢せよ」
 女性のひとりを抱き上げようとしたところで、バースィルが本当に救い手であると、囚人たちは理解した。
 すすんで身を預けてくる。
 そして、はじめたちが、窓の外で受け取るのだ。
「静かに、落ち着いてね」
「さ、みんなで逃げよう……」
 凪は、暗い森へと隠れ場所を示し、見張りの巡回に備えて大天使を召喚している。
 最後のひとりを担ぎあげると、バースィルは洋館、いや秘密施設の工場長が、手術室で行っている企てを聞いた。
「民よ、……まことか?」

 大木の幹から幹へと。
 内方・はじめ(望郷の反逆者・g00276)は、洋館を取り囲む木立にそって、建物左翼がわまで隠れすすんだ。
 その位置から、玄関口にキャノンの狙いを定める。
 人間戦車シュプールフート・クリーガーは、両脇で警備についたままだ。
(「外部からの襲撃に見せかければ、工場内で仲間が暴れる援護にもなるし、トループスが逃げた女性たちに気づくリスクも減らせる……」)
 自分のカウントで、攻撃を開始した。
 砲声と、反撃。
 キュラキュラと、無限軌道(キャタピラ)が、森へと向かう音。
 ややあって、手薄になった正面玄関へと、先程は叶わなかった、光学迷彩での館内侵入を試みる者が現われる
 竜の要素がほぼ全面に出ているタイプ。
 ストロベリー・メイプルホイップ(ドラゴニアンのレジスタンス諜報員・g01346)だ。
 本来は全身ピンクなのだが、壁の化粧板や彫刻に擬態していて、一般人からは判別つかない。
「ほかの人はどこかな? ……あ」
 廊下の先から、貧民街で女性たちを誘拐していた、ならず者たちがやってくる。
 言い合いをしながら。
「……軍のヤツらが敵襲だとか騒いでますぜ」
「冗談じゃねえ、戦争にまでつきあえるか。ずらかろう」
「でも、『魔女』に怒られる……」
「工場長なら、地下の手術室にこもってるよ」
「そんじゃ、今のうちだ!」
 ならず者たちはストロベリーに気付かず、背中を見せて去っていく。
(「路地裏ならスッキリさせてあげたのに。プロは相手にしないなんてね」)
 ハンチング帽のヤツらを見送り、洋館をさらに進むと、また1人。同じような格好の男に出くわした。
 彼は、人間戦車を撃破したところだった。
「バースィル様!」
「おお、ストロベリーであるか。」
 いつまでも被っていても、と帽子を脱ぎすて、バースィル・アシュラフ(焔陽の獅子王・g02196)は、目的の女工場長が見つからないと伝える。
 ドラゴニアンの諜報員は、地下の施設へとリターナーを導いた。
「急ぎ駆け付け、企みを潰さねばならぬ」
 そう、すでに機械化手術が始まろうとしているのだ。
 2人の前に、頑丈そうな鉄扉。
 と、ここにも警護のトループスが立ちふさがった。
「……元は犠牲者かもしれぬが。更なる犠牲を出さぬために、我は貴様らを倒そうぞ」
 仲間より一歩出ると、『戦覇横掃(せんぱおうそう)』。
 人間戦車の背中の砲より発射された炸裂弾を、シャムシールで薙ぎ払う。
 砲弾ははじけ、目標をそれ、地下通路の壁面で爆発する。
 そのまま、本体に斬りかかった。
「そこをどくがいい! 貴様らに用はない、我が目的はただ一人よ!!」
 吼えても通じぬと知りながら。
 ストロベリーは息を思いきり吸い込んでいる。
(「とりあえずもう元に戻らない訳だし、悪いのはクロノヴェーダだし。なら倒してあげるのが良いよね」)
 ここまで積み重なった、怒りの増幅と命中精度。
 『破壊の吐息(ダイナミックブレス)』で、手加減のないエネルギーを吐きだした。
 残弾のぶんまで引火したのか、爆発が洋館全体をわずかに鳴動させる。
 木々を揺らすほど伝播し、森林まで入り込んでいたトループス級を、振り返らせた。
「さて、……釘付けにしておくのは、ここまでね」
 はじめはアームキャノンを構えなおし、応援に来てくれた、錢鋳・虎児(無敵の御ガキ様・g00226)に許可を出す。
「じゃあ、もうブッ飛ばしていいんだな!!」
 少年は難しいことを考えるのが、苦手らしかった。
 行動が作戦に沿っていたのは、はじめのような、大人の女性からの指示だったため、かもしれない。
 棺桶型のミサイルランチャーを担ぎあげる。
 並んだ陸戦砲兵ペアは、幻影の砲兵を増やし、互い違いになって横隊を組んだ。
 誘い出されたシュプールフート・クリーガーたちからは、木々の陰よりも多くの砲身が見えている。
 虎児の出したぶんの幻影は、軍服を着ていない。
「……?」
 左右から、全裸の女性に挟まれて。
 僅かに首をかしげた、はじめだったが。
「カーちゃんたちぃぃぃぃーー!! まとめてぶっとばせぇぇぇぇーー!!」
 少年の号令には従う。
 同時に乱れ飛ぶ、弾丸と誘導弾。
 人の過去にはいろいろあるだろう。この子の母親ではないけれど。
 連携された『イマジナリキャノン』が、敵兵を根こそぎ叩きのめした。
 新たな追手が来る気配は、もう無い。
「私たちも、工場内に突入するわ」
 虎児を連れて、再び森を抜ける。
 そのころ、手術室の鉄扉も開かれようとしていた。

 祈るのは初めてかもしれない。
 自分でも何に祈っているのか分らぬまま、神でないのは確かと強がりつつ、バースィル・アシュラフ(焔陽の獅子王・g02196)は、地下手術室に踏み込んだ。
「間に合っていてくれ……!」
 まず、目についたのは、無限軌道つきの車体だ。
 それを収めた部品ラックには、シリンダー状の機械腕、砲塔、そして軍服の上着が据えられている。
 その奥に、鎖で吊られた女性を見つけた。
 貧民街のしわくちゃどころか、着衣はすっかり剥ぎ取られているが、生まれたままの姿を確認し、まだ何の手も加わっていないことに安堵した。
 工場長と思われるサイボーグは、こちらに背中を向けている。
 改造用ヘルムとマスク部の調整に没頭しているらしい。
 ストロベリー・メイプルホイップ(ドラゴニアンのレジスタンス諜報員・g01346)は、竜の首を手術室に突っ込んでくるなり、また大きく息を吸い込んだ。
「ここはのんびりしないで先手必勝! 一撃必殺!」
 超強化版、『破壊の吐息』二射同時攻撃を狙う。
 ブレスが機械仕掛けの背面を焙った。
「これで決まり! ……だと嬉しいけど、そんなことないよね」
 ダブルにまでは届かなかった。
 吐息の発した蒸気が晴れると、アヴァタール級ゾルダート、『トルナード・ヘクセ』も、反撃の気配をみせる。
「なんだ、おまえは……。いや、なんだその超乳は?」
「ど、どういう反応ぉ?」
 ストロベリーのことを、攻撃してきた相手というより、豊満な体型の持ち主と捉えていた。
「惜しいな、あとは……さえ、……ならば」
 ヘクセの目は、赤いレーザーを照射しながらドラゴニアンの肉体を走査し、声は途切れがちになっている。
 仲間が戦っている間に、バースィルは囚われの女性の元へ。
 鎖はまた、腐食させて千切った。
「待たせたな。安心するがいい、我が来た」
 とりあえず、部品ラックから軍服を奪って、羽織らせてやる。
「う、うんん……」
 呻いた。
 意識も取り戻しそうだ。

 
「もう始まってんだな! ブッ飛ばぁぁぁす!!」
 戦場につくやいなや、錢鋳・虎児(無敵の御ガキ様・g00226)は棺桶ランチャーを振り上げると、アヴァタール級に突撃していった。
 当然、ヘクセンリヒトのレーザー光は、6歳児にも襲いかかる。
 盾代わりにかざした棺桶で押し切り、そのまま叩きつけて。
「ひっさぁぁぁーーーーっつ!!!」
 零距離射撃でマジックミサイルを乱射した。
 オッパぃ……いや、胸部装甲にも命中したが、バラバラにとんだ弾体は周辺にこそ、被害をもたらす。
「やめろ、大事な装置が壊れりゅ!」
 ドリルを回して、女工場長は慌てだした。
 虎児を地下まで連れてきた、内方・はじめ(望郷の反逆者・g00276)は、部品ラックの裏をすり抜け、ヘルムの調整台まで回り込んだ。
 敵の背後をとって、銃撃する。
「ああ、おまえも何をすりゅか、そこをどけえ!」
 設備に気をとられ、被験者のことは忘れているようだ。
 この隙をつこうと、バースィルは助けた女性に頼む。
「掴まっていろ、少し急ぐゆえ……ぬ?」
 抱きかかえて分かった。
 先に助け出した囚人が言っていたのは、このことか。
 女工場長は、まず好みの体型の女性を探して牢屋からつれていく、と。
 胸囲もあるかもしれないが、他の囚人に比べて腰回りが細い。そうやって、自分好みのトループス軍団を従えて悦にいる、なんという企みであったことか。
 被害者たちの怨嗟の声が聞こえた気がした。
「復讐を許そう。存分にやるがいい、幻影共よ」
 『黒耀鏡の映影(フクシュウノトキ・キタレリ)』を発動する。
 女性型のまぼろしは、ドリルトルナードの突風さえも、脳をえぐるような切削回転で乗り越え、女工場長に突き刺さった。
「ええい、お前たちなどいい。私は、あの2人を改造すりゅ!」
 はじめは、光線がかすってコートを引き裂かれていた。
 『カーちゃんたち』と同じにはなっていない。下にはキャットスーツを着ている。
 だが、その体型を、トルナード・ヘクサは気に入ったようなのだ。

「ほっほっほ♪ 素晴らしい腰つき、そっちの超乳と合成できれば、理想の体型ができあがりゅ」
 レーザー攻撃の手数より、気色悪い口数が増えている。はじめが遮蔽に使っている機材が惜しいのか。
「私たちを捕まえて、改造するのはやめた方がいい」
 犠牲者たちの怨嗟の声は、はじめの耳にも届いている。
「あなたより高性能になって、あなたが一般兵になっちゃうわ」
 『報復の魔弾』となって、発射された。
「ふぐりゅ、ぐはあ」
 サイボーグの頭部を貫通した。
 眉間の傷から喰らわれたかのように消滅していく。
 わずかな機械部品だけが、地下室の石床にガチャンと転がった。
 戦闘は終わりだ。
 緊張感のとけた虎児は、呑気にたずねる。
「……で、これからどーすればいいんだ?」
 もちろん、ボスが倒されたので、この秘密工場の自爆装置が作動したはずだ。
「のんびりしないで、脱出!」
 ストロベリーは、建造物分解を試みた。
「もう屋敷の持ち主もいないし!」
 天井が分解され、そのまま資材として地下室の床に積み上がっていく。2トンぶんが変化すれば、そこへ陽光が差し込んだ。
 出来た脱出口から、はじめが飛翔を使って先導した。
 続いて、バースィルが、女性を抱えて飛び上がる。
 虎児だって、大人しくついてくる。
「俺、知ってる。ここ、さっき通ったとこだよな?」
 地上に出てみれば、洋館の入り口の前だった。
「ほら、ここも危ないでしょ、行った行った」
 ストロベリーが急かし、全員が森の中に駆け込むと、背後で轟音。
 木の葉にメラっと、赤い照り返しが起こったが、引火するようなことはなく、森の開けた場所だけが、円筒状に燃えあがって、工場を飲み込んだのだった。
 ディアボロスたちは、一瞬だけ現状を見届け、細い小道を去っていく。

『チェインパラドクス』(C)大丁/トミーウォーカー

 

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