大丁の小噺

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全文掲載『【獣神王朝エジプト奪還戦】亜人ミノタウロスの侵攻』

【獣神王朝エジプト奪還戦】亜人ミノタウロスの侵攻(作者 大丁)

 砂の台地を撫でるように、霧が発生していた。
 視界を覆う白を割って、黄金に飾られたヤギ頭が突きだされてくる。
「我が軍に集いし、『亜人ディアドコイ』よ! 時は来た!」
 人型種族の号令で、大軍が湧きたつ。
「『プトレマイオス』の旗の元、偽りの神々を滅ぼし、エジプトの大地を奪還するのだ! 『ファロス大灯台』を打ち立て、我らが王『イスカンダル』に『アレクサンドリア』を捧げよ!」
 シナイ半島に侵入した亜人は、このヤギ頭、ジェネラル級『救済者プトレマイオス』に応えて、進撃を開始する。
ミノタウロスの狂戦士を先鋒とせよ」
 次なる檄が飛ぶ。
「ゴブリンファランクス程度を、亜人の力と思われては、蹂躙戦記イスカンダルの恥だ」
 この地の村々を略奪し、一定の戦果はあげたものの、妨害してきた戦力が気にかかる様子。
「圧倒的な力で踏みつぶすのだ」
 牛頭の巨躯たちは、直々の命令に、雄たけびを上げた。
「ブモォォォォ」

 パラドクストレインの車内で、ファビエヌ・ラボー(サキュバス人形遣い・g03369)は、落ち着いた声で話した。
「獣神王朝エジプトは、一般人のリターナー化による『見せかけの死者の復活』を利用し、一般人から絶大な信仰のエネルギーを収奪していました。そして、信仰のエネルギーから生み出した強力なクロノ・オブジェクトにより、断片の王の戦いである『七曜の戦い』に備えて盤石の態勢を整えていたのですわ」
 いよいよ奪還戦が近づいて、目標ディヴィジョンのあらましを説明している。
「……しかし、強大なクロノ・オブジェクトを生み出していたジェネラル級エンネアド『大いなるトート』の撃破を始め、『巨大砂上船スフィンクスの奪取』『アスワン大城壁の破壊』『トループス級エンネアドの生産地であったナセル湖の機能停止』、更には、信仰の礎であった『死者の書の破壊』により、クロノ・オブジェクトの有意性を失い、人々の信仰を失う事になりました」
 案内人が微笑みをみせたのは、いわばねぎらいだ。
「この機を逃さず、百門の都テーベに攻め寄せたディアボロスは、ルクソール会戦に勝利して、テーベの城壁を破壊、クフ王を守護するべく出撃して来た『神域の守護神』マフデトも撃破し、断片の王である『クフ王』を追い詰めたのです。彼は、七曜の戦いに勝利する為に準備していた『太陽の船』を始め、歴代のファラオであるジェネラル級マミーを解き放ち、決戦態勢に入りましたわ」
 人形にも手伝ってもらい、当地の略図が広げられる。
「この決戦に乗じるように、排斥力の弱まった獣神王朝エジプトの土地を奪おうと、幻想竜域キングアーサーのドラゴン、断頭革命グランダルメの自動人形も戦いに介入しています。更に、南からは『巨獣大陸ゴンドワナ』の巨獣の群れが、東のシナイ半島からは、『蹂躙戦記イスカンダル』のジェネラル級ディアドコイ『救済者プトレマイオス』が多数の亜人を率いて、攻め寄せてきます」
 黒手袋に覆われた細い指が、図の上を行き来する。
「獣神王朝エジプト奪還戦では、エンネアドやマミーに加えて、4勢力のクロノヴェーダとも戦いになりますわ。これらの軍勢に対して戦争直前に攻撃を仕掛けて戦力を削る、それが今回の依頼です」
 ファビエヌは略図から顔をあげ、集まったディアボロスのひとりひとりを見た。
「敵は大戦力である為、引き際を間違えず、充分な打撃を与えたらすぐに撤退する事が重要になります。お気をつけて」

 ホームに降りて見送るさいにも、扉口から声をかけた。
「獣神王朝エジプトとの決戦を行なえますのも、攻略旅団がイイコトを積み重ねた結果かと思います。断片の王『クフ王』が健在ななかでの戦いですが、ぜひこのファーストアタックもイイコトにして、決戦の勝率をあげてきてくださいませ」

 偽りの神々が治めてきた砂漠。ディアボロスは、その欺瞞を暴くために獣神王朝へと戦いを挑んできた。
 いままた、エンネアドを偽神とよび、エジプトを『奪還』すると宣言した別勢力が、霧の彼方からやってくる。
 ハーリス・アルアビド(褪せる事を知らない愛・g04026)は、その猛る亜人の群れを、砂の丘から見下ろし、歯噛みした。
ディアボロスの進軍により他のディヴィジョンからの侵攻も強まるとは」
「んんーむ」
 唸っているのは、クィト・メリトモナカアイス(モナカアイスに愛されし守護者・g00885)だ。
「はっきり言って。とても迷惑。引きこもればよかったのに……」
 つまらない縁ができてしまった、と浮遊球形ガジェット『モナカ』射撃型を準備する。エヴァ・フルトクヴィスト(星鏡のヴォルヴァ・g01561)が、発動させているのは魔術だ。
「男は殺し、女は犯し、亜人の母として蹂躙される事こそが、人間の唯一の救済ですって……?」
 正確なスペル詠唱と、爆発しかけの怒りは、両立する。
「ふざけるな!」
 エヴァたちは、復讐者なのだから。
 かと、思えば、下弦・魔尋(淫魔導機忍・g08461)のように、表の態度はカラカラと笑っている者もいる。
「うわー、ギンギンにやる気満々だねー。ボクとかどうする気かな?」
 魅了の使い手は、舌なめずりをした。
「まあ、お母さんにはなれないから殺されるだけかー」
 網で出来た、くノ一装束に身をつつんでいるが、少年である。峰谷・恵(フェロモン強化実験体サキュバス・g01103)にも、魔尋の言わんとするところは理解できたものの、あの亜人を篭絡するのは骨が折れそうだと感じていた。
「ゴブリンだけじゃないとは思ってたけど、余計話はできそうにないかな」
「イヒヒ、されるのなら、興味はあるけどね♪」
 魔尋は結局、直接的な表現をした。
 メルキディア・セデクリエル(閃機術士のエンジェリアン・g03132)は、さらりと受け流す。
「ゴブリンの先兵は話に聞いてた。今度はミノタウロスか……突撃兵としてはもってこいの亜人ね」
 『輪閃機シルトガーレ』を浮かばせると、リング部にエネルギーを貯め始める。あの肉体を打ち負かす武器を、試さずにはおれない。
「でっかいなあ……」
 ツキシロ・フェルドスパー(非日常に迷い込んだ漂流者・g04892)は、だるそうに口を尖らせた。
「図体デカいだけの木偶さんやったら楽かもしれんけど……」
「狂戦士の先鋒かー……確かに突撃力、蹂躙力は凄そうだけど、力任せな分、搦め手には弱そう?」
 攻略に話題が向いて、大空・啓介(航空突撃・g08650)が思案顔をみせるが。
「頭の良い人、任せた!」
 やはり、ニカッと笑って、啓介はフライトゴーグルを掛ける。
「狂戦士、つまり戦場では前に出て敵を倒す以外しないやらない相手ですよね」
 大崎・朔太郎(若返りサキュバスアイドル・g04652)が、苦笑しつつ、話を引き継ぐ。白臼・早苗(深潭のアムネジェ・g00188)も、同意の頷きを返した。
 そのうえで。
「私たちの目的は相手の戦力の適度な削減。ミノタウロスに、理性が無さそうなら、戦い方を考えた方がいいかもね」
「ま、デカいんなら小回り効かんよなっと!」
 ツキシロがひらひらと、舞う羽根のように手を振った。早苗は、それを目で追い、ディアボロス側は翼でも生えたような、軽さと速さを生かすべきと悟った。
「巨体の亜人じゃ狭い場所は動き辛そうだよね。あのあたり……」
 砂漠といっても砂の平地ばかりではない。
 早苗が指差した方向に、岩山が風化して、渓谷になっている地形がある。
 ハーリスは祈るような仕草をした。
「めぐり合わせでしょうか。敵を誘いこめば、知力に劣っていそうなミノタウロスを弱体化できる、と」
 感じるところは、クィトにもあったようだ。
「うむ。亜人のやつらも、来てしまったものは仕方がない。これは、我らなりの招待」
 作戦は決まった。
 ハーリスは、続けて誓う。
「断片の王に勝利すればこの地はまことの神の御手に戻るのです。何人たりともこの地を奪う事は許しません」
 覇気に後押しされ、ディアボロスたちは丘を下る。
 トループス級ディアドコイミノタウロスの狂戦士』は、牛頭でいなないた。
 我先にと突っ込んでくる、と見えて、隊列はしっかりしている。クィトは、両手斧の並びを見渡し、静かに伝えた。
「我にあっては、許さぬとわざわざいうのも今更。ゴブリンが来た時にすでにそう決めた。故に」
 モナカ射撃型を放つ。
「汝ら全て、この地にて滅ぶべし」
「ブモオォッ!」
 狂ったように、斧を振り回してくる。にもかかわらず、頭が悪そうかと思ったら、ちゃんと命令を伝達するやつがトループスの中にいた。そういえば、同じゴブリンでも、『蹂躙戦記イスカンダル』がわでは、指揮系統はちゃんとしていた。
 エヴァは、前のめりながらも、気がつく。
「指揮を執る者を、確実に狩っていきましょう!」
 雑多な集団の中に、部隊の区分けと役割がある。エヴァの看破は、亜人の先頭列、相手左翼の端にいるのが、くだんの指揮官であると伝えた。
「砂漠の神にして守護神たるセトと、お力添えを。外敵を悉く屠る戦神としてのお力をここに」
 ハーリスは、敵の前列を乱すことを優先する。
「大群に連携までされては厄介です。砂嵐の砂で視界を塞ぎ、嵐の音で声による連携も撹乱します」
 『セトへの嘆願』が通じ、黄金色の砂が展開される。
 狂戦士が、ひたすら高速で叩きつけてきていた斧刃の輝きが、不揃いになってきた。
「前に出て敵を倒す以外しない相手なら、同士討ちとかを狙えば大混乱になりますよね?」
 朔太郎が、敵陣にするりと入り込む。
「狙うは『愛の弾丸(ラブショット)』、全身全霊の一撃、行きますっ!」
 投げキッスのかたちをしていた。
 サキュバスミストを誘惑の魔力で凝縮してある。ミノタウロスは、狂乱の色に染め上げた目をしていたが、そこに魔力のハートをくらって、前後不覚となる。
 敵も、全身全霊を籠めて斧を振り下ろす。ただし、同胞である亜人の前列に。
「篭絡させれば僕を狙う斧が逆に敵を倒してくれるって寸法です。味方への援護にもなりますしね」
 見れば、朔太郎のつくった敵隊列の穴に、魔尋がダッシュで飛び込んできたところだった。
「狂戦士をより暴走させて同士討ちさせちゃおう♪」
 駆け抜けながらバラまいているのは、これも桃色の風、サキュバスミストである。
「ブモオオッ! 『タウロスサイクロン』、ハジメェッ!」
 霧のかなたから、怒鳴り声がした。
 斧をぶつけ合っていた牛頭たちが、虚空にむかって振り回しはじめる。
 鮮血色の風が立つ。
 魔尋は、桃色が押されているのを感じた。
「おっと反撃の風はミストと相性が悪いから」
 とりあえず、篭絡に成功している個体を盾替わりにして、そいつに切り刻まれてもらう。
「ありがとう。でもボクはやっぱり、お母さんにはなれないな」
 全身から血を噴きださせて、その個体は倒れ伏した。
亜人亜人を戦わせるヤツがいるブモウ!」
 また、的確な状況判断してくる怒鳴り声だ。朔太郎と魔尋、サキュバスの男たちは、狙われたのなら、さっさと逃げ出した。
 朔太郎は、後ろにむかって投げキッスをばらまき、魔尋といっしょに、追っ手を渓谷へと誘い出す。ハーリスは、怒鳴り声の主が、この部隊の指揮官であると、あたりをつけた。
エヴァさん、高速の斧を使っている亜人が、あなたの探し物でしょう」
「ええ! これ以上は蹂躙させませんよ! 私達、ディアボロスを滅ぼさない限り!」
 魔術によって、エヴァがその身に宿したのは、神の愛馬として世界をその俊足で駆けた幻獣の寓話より、身体の動きを速める力。
 『神速の瞬き(スレイプニル)』で、怒鳴り声のミノタウロスに接近し、接敵状態からの斧刃を、紙一重で回避する。
「伝承にある通り、ミノタウロスは英雄に倒される運命なのです!」
 部隊指揮官の首が、エヴァによって落とされる。
 見立て通り、亜人たちは、一気に知性が下がったかのようだ。
『炸裂気功撃(サクレツキコウゲキ)』、破ァッ!!!」
 恵が、敵隊列の側面からパラドクスを喰らわせた。
 話の通じない相手を篭絡せねばならぬ時、サキュバスのフェロモンも、闘気に載せて叩きつけるよりない。
 めっぽう痛そうなそれが、狂戦士をよりいっそう暴力に仕向けた。
 前衛にあわせて進軍すべき兵が、側面から斜めに抜け出て、勝手に単独で斧をぶつけてきている。
 『LUSTオーラシールド』で受け流し、恵は直撃を避けた。
 フェロモンをばらまきながら、渓谷へと後退する。
 効果があったかは確かめられないものの、追ってくる部隊と本隊とのあいだの指示を断つ目的で、『通信障害』も残留させた。
「付かず離れず、おさわり禁止の距離を維持していこう」
 早苗は、踊るような足さばきで、力任せな攻撃をさばいていた。
 やがてミノタウロスの隊列は、横に並べず、細く長くなっていく。岩山の溝のような削れた地形に、誘い込まれているからだ。
「ブモオッ! ヤマなんか、切り崩せェッ!」
 一時は、集団戦法がきっちりとれる敵にヒヤリとしたが、ようやく遠目にみた印象のとおり、獰猛なだけの巨体の群れとなった。
 周囲の地形に手を焼いて、両手の斧は、ディアボロスに振るよりも、多くの回数、岩石を削っている。
 さすがに早苗も、ちょっと笑いたくなった。
「これはあくまで前哨戦、戦力削減が狙いだものね」
 『偽る極楽鳥の舞』は軽やかに、その一挙手一投足で針が投擲されているなど、亜人にはいっそう気がつけない。
 速さと翼を得ているのは、啓介。
 早苗たち、サキュバスのもののような自前ではなく、人間の航空突撃兵は、フライトデバイスを展開する。
 渓谷にむかって、急降下の連続。
 『復讐の刃』があれば、爆弾も落とせる。
「次はあえて、低空飛行で敵の安易な直接攻撃を誘うよ!」
「どや、弾丸撃ちこんで足止めや!」
 ツキシロも飛翔を使って渓谷に突入し、ミノタウロスの蹄の下を狙う。『水霊召喚・水衝弾(スイレイショウカン・スイショウダン)』をばらまけば、精霊と妖精がもたらす水の魔力で、岩山の地形は砂漠にはない泥濘となった。
「もう逃げられへんやろ。ガンガン発射するで! 水の弾丸はぶつかったら痛いんやで!」
「とーべーとーべー、モナカー」
 クィトが、再び上昇すると、ディアボロスの航空部隊もそれにならった。
「ぱっと見、飛べそうではないけれど。エンネアドを相手にするつもりなら対策くらいはしてるかな? 油断はせず」
 眼下には、斧を放り投げてくる、牛顔があった。
「それじゃあ我は、攻撃重視」
 『射撃のコーニッシュレックス』で、モナカ射撃型の機銃掃射を行う。
 プトレマイオス軍から、部隊を分断させ、指揮系統を破壊したうえで不利な地形に誘い込んだ。
 トループス級は、その数をどんどん減らしていく。
 渓谷の入り口では、メルキディアが門のような役割を果たしていた。すなわち、後続の別部隊を、抑えるために、『銃閃機シェキルザッパー』を撃ちまくっていたのである。
 図体のデカさを鑑みて、膝を狙った。
「みんな! そろそろ撤退の頃合いだと思うわ」
 タイミングを計っていたのも、メルキディアだ。
 先兵とはいえ、プトレマイオス軍を一度に壊滅できるはずもない。ディアボロスたちは、さじ加減も心得ていた。
 了解の声を次々と聞きながら、メルキディアはシルトガーレを起動する。しんがりも務めるのだ。
「リダブライザー・リング展開。エネルギー圧縮・反転!」
 円形の遠隔操作型閃機が形成した、リダブライザー・リング内にパラドクスのエネルギーを圧縮させることで属性が反転される。
 光を飲み込む超重力の砲弾をシェキルザッパーに装填した。
「『ブラックホール・グレネード』! これで、さよならよ!」
 砲撃が命中すると、渓谷は岩山ごと内側に圧壊した。
 もはや、ろくに動けなくなっていた牛頭の狂戦士は、エジプトの地に葬られたのである。

 

『チェインパラドクス』(C)大丁/トミーウォーカー

 

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