大丁の小噺

大丁です。読み方はタイテイが標準です。※大丁は、株式会社トミーウォーカーのPBWでマスター業務を行っています。ここで関連する告知を行うことはありますが、マスター契約時の規約により、ゲームに関するお問い合わせは受け付けられません。ご了承ください。

全文公開『硫黄島から託されたモノ』

硫黄島から託されたモノ(作者 大丁)

大本営からは、この硫黄島の死守命令が出ていますが、『飛龍』がいない現有戦力では、大反攻作戦まで硫黄島を防衛するのは不可能でしょうね」
 ジェネラル級冥海機『翔鶴』は、勝ち目のなさを受け入れた。
 その上で、思考を巡らせる。
 敵は想定を越えて強化されているのだ。なにか策を講じなければならない。
ディアボロスの性質を利用して、なんとしても、大本営の命令を果たして見せましょう」
 配下を呼び、計画を告げる。
 叶わなかったときのための予備策として、アヴァタール級には危険な任務についてもらうことも、よく言い含めた。
「『翔鶴』様、御心配にはおよびませんですよ。きっと上手くいきますって。それに、ウチのトループスちゃんたちもイザとなった時の覚悟はよーくできてますから!」
 『キャバリアガール』の一体が、努めて明るい声音をつかった。
 ジェネラル級は黙って頷く。

 新宿駅グランドターミナルでは、『冥海機ヤ・ウマト』行きのパラドクストレインが出現していた。時先案内人が、集まったディアボロスたちに向けて、車内で作戦を説明する。
ごきげんよう。ファビエヌ・ラボー(サキュバス人形遣い・g03369)ですわ」
 案内人の指が糸を繰り、二体のぬいぐるみがそれぞれ冥海機の画像を掲げる。
「ジェネラル級冥海機『飛龍』の撃破で、硫黄島基地攻略の機会を得ることが出来ました。硫黄島には、まだ、ジェネラル級冥海機『翔鶴』が健在ですが、本来の司令官の飛龍と精鋭部隊を失ったため、その戦力は大きく低下しております。海上で、残存の冥海機戦力を叩き、硫黄島の翔鶴との決戦の道を切り開いてくださいませ」
 ぬいぐるみたちは、海図も広げた。
「戦闘海域には、翔鶴がディアボロスへの伝言を持たせた一般人が救命ボートで流されているので、彼らの救助をまず行う必要がございます。その後は、硫黄島海上部隊の撃破を行う事となりますが……」
 いったん、言葉をきるファビエヌ。
「……状況によっては、戦闘を中断して撤退する判断も必要かもしれません。翔鶴からの伝言の内容を確認しつつ、現場の判断で、攻めるべきか撤退するべきかを判断してください」
 話を聞いたディアボロスたちも、互いに顔を見合わせた。

 ファビエヌは、周辺の状況を付け加える。
 その都度、ぬいぐるみたちが、海図に差し棒をあてた。
「フィリピン方面からの情報では、冥海機による大反攻作戦の準備が行われているようです。硫黄島からはグアム方面に進出ができるので、翔鶴の目的は、大反攻作戦の準備が整うまでの時間稼ぎと思われますわ。レイテ沖海戦に勝利すれば、大反攻作戦を阻止する事は出来るので、翔鶴の時間稼ぎに付き合うというのも、一つの手かもしれないのです」
 車内に資料を残し、ファビエヌはプラットホームへと降りる。
「ぜひ、イイコトをなさってくださいませ。思慮深くて、洞察に富んだ、ね」
 ぬいぐるみたちと共に、列車を見送った。

「敵が攻めて来るっていうのに、こんな救命ボートで海に流されるなんて……」
 一般人のひとりが、乗り物を隅々まで見回した。随伴艦などと比べるまでもなく、いかにも頼りない。
 年配の者が、目をつぶったまま咎める。
「我慢しろ、硫黄島が玉砕するなら、海軍基地にこもるよりも、こっちの方が生き延びるチャンスはある」
 腕組みをし、船縁に体を預けた。
 そう言ったものの、年配者も不安らしい。寝たふりにもなっていない。
「もしかしたら……」
 別の者が口を開けると、片目でそっちを見たからだ。
「……もしかしたらだけど、故郷に帰る事だってできるかもしれないぞ」
「そうかい。じゃあ、ディアボロスに頼んでみるんだな」
 年配者がまたそっぽを向いたので、最初の男はこっそりと祈り始めた。
「どうか、ディアボロスが良い人達でありますように!」

「故郷……という事は、台湾島から翔鶴が連れて来た人々か?」
 ラキア・ムーン(月夜の残滓・g00195)は、ジェネラル級がたどったこれまでの経緯を思い浮かべた。
「結局、冥海機にとってみれば、こういう使い方か海戦へと連れて行くに過ぎない存在という所か」
 漂流させられている救命ボートの発見に努める。
 『水面走行』も使った。探索海域は正確で、難なくその形を捉えた。
 遠目からも人々の疲れ切った様子が判ったが、ラキアは急がずゆっくりと歩を進める。両手を上げ、戦闘の意思は出さない。
 まずは安心してもらわなければ。
 ある程度の距離で一旦停止し、接近の許可をとることにした。
「不安にさせてしまってすまない。此方はディアボロスだ。君たちを安全圏まで護衛する為に此処に来た。現在の海域に居れば、確実に戦闘に巻き込まれるだろう。先導する為にも救命ボートへの接近を許してもらえるだろうか?」
 このころには、乗っている全員が、ラキアに注視していた。
 そのなかで年配の男性が返答する。
「はい。私たちは、ディアボロスに降伏し、あなたの護衛を受け入れます。どうか、助けてください」
 水面上のラキアは、ホッと息をつき、またボートへと歩いていった。
 年配の男性は懐から何かを取りだしている。武器と間違われないよう、彼もゆっくりとそしてよく見えるようにしていた。
「手紙か……」
 またあの時間稼ぎだろう。
 船縁につくとすぐに男性から渡され、中身を確認する。
「『硫黄島基地を無血開城する為の話し合いを行いたい』――」
 ――話し合いを受けてくれるのならば、硫黄島への攻撃を行わず撤退して欲しい。
 硫黄島への攻撃が停止された時点で、この私『翔鶴』が、ディアボロスと話し合う為に、ディアボロスが制圧した『小笠原諸島』に向かわせてもらう。
 その際、護衛はつけない事で、戦闘の意志が無い事を証明しよう。
 また、誠意として、ディアボロスが制圧した台湾島の海軍施設の封印を解く鍵も持参させてもらう――と、やはり他のボートと同内容だった。
「翔鶴殿からの手紙、確かに受け取った」
 ラキアは、『翔鶴』の企てについては態度に表さず、安全圏への方位を指示する。
「ありがとうございます、ディアボロス様!」
 年配の男性は、託されたものに重責を感じていたのだろう。
 急に表情が穏やかになり、皆にボートを漕ぐように次々と声をかけていった。ラキアも後ろから押して補助する。
 陸地はまだ遠いが、戦闘に巻き込む恐れのない距離まで移動できた。
「君たちは元々翔鶴に何処かから連れてこられたと聞いたが、それは台湾島だろうか?」
 去り際、ラキアに問われた人々は、一様に驚いた顔をする。
「お、俺の故郷は台湾島だ!」
 若いひとりが手を挙げる。
「コラ、おまえ、ディアボロス様にむかって……」
 年配者は慌てたものの、喜びがにじみ出ていた。
「即座には無理だが、望むならそちらで保護する事も可能だ。遠慮なく言ってくれ」
 ラキアの申し出には、もうボロボロと涙を流している。
「はい……はい。私の生まれも台湾島です。ありがたいことです。すぐにとは申しません。いつか帰れる時を待ち、生き延びたいと思います。……う、ううう」
 一般人たちの話によれば、台湾島には各地から人々が集められていた。
 ある者などは、沖縄出身で台湾島に働きに出ていたという。いずれにせよ、翔鶴が台湾島からの撤退のさいに連れてきたという予測は当たっていたようだ。
 ラキアは、手紙よりも大きなものを託されて、救命ボートと別れた。

「……台湾島から此方に連れてこられ、作戦の為に救命ボートで時間稼ぎに使う。決戦の時に盾にするよりはマシではある、けれども若干悪辣。こういう手を平然と取れる点は、翔鶴の脅威性」
 事情を知ったクロム・エリアル(近接銃士・g10214)は、ラキア・ムーン(月夜の残滓・g00195)と合流するなり、思いを口にした。
 児童のような小柄さと、変わらぬ表情から仕草には出ていないが、感情は読み取れる。
 ラキアは、撤退案を否定する考えを述べた。
「相手が何を企てていようと、速攻ほど効果的なものは無い。……それに、飛龍を欺いた時から此方が場を作って戦ってきたんだ。今更、相手が整えた場で踊るつもりは無いさ。奴の企みは、正面から突破する。敵の策に付き合う時は、既に過ぎた」
「同意。敵の話には乗らない。ディアボロスを理解しつつある敵、脅威度上昇」
 故にこその速攻。
 故にこその即断。
 ふたりは、引き続き水面走行を使用し、硫黄島を防衛する冥海機たちのもとへと向かう。
 艦影、あるいは人影が見えてきて、ラキアは突撃槍『《RE》Incarnation』を手にし、クロムは双銃『Libra』を構えた。
「JK型海防艦……冗談のような見た目。けれども、油断は禁物。クロム、戦闘行動を開始」
「……一般人を逃すまで待つとはな。どういう指示を貰っていたのかは知らんが、ひとまず感謝はしておこう」
 女学生の制服姿が数人おり、ディアボロスを眺めたまま、波の上を浮遊している。
 奥にいる金髪ロングヘアを護衛する、トループス級だろう。
「翔鶴を生かしておけば更なる禍根になる。奴までの道を切り拓かせてもらうぞ」
 ラキアはさらに接近しつつ、『Call:Flame_Gust(コール・フレイムガスト)』を起動した。『JK型海防艦』たちも動く。アヴァタール級『キャバリアガール』へ、宣言する声まで聞こえる。
「御国のために私たちも戦います!」
 単装砲を撃ってきた。ラキアの槍は、穂先に炎弾を生成する。
「複合術式展開……」
 炎に加えて、風の魔術を同時に扱う。
 中距離から吹かせて、穂先の炎弾を発射した。砲弾と交差しながら、突風の勢いに乗せて、『貫通撃』で敵の制服を撃ち抜く。
 数体の撃沈に、JK型はすばやく隊列を組み替えた。
 互いに援護しながら、正確に砲撃してくる。
 ラキアは槍を盾代わりにかざして防御した。足は止めない。
「此方も前へと進み、接近戦の間合いをとっておこう。遠距離から連携を組まれて攻撃されるよりはマシだ」
「了解」
 小柄な身体を、さらに低い姿勢にする、クロム。
 ディアボロスたちは敵との間合いをつめ、隊列を攪乱した。
「『Ex.Bullet.Parabellum(エクスバレット・パラベラム)』……装填」
 双銃の弾丸が交換される。
「挺身突撃ーっ!」
 スカートのすそをひるがえし、トループス級も肉薄してきた。
 砲弾をかいくぐられた時の備えはあったようだ。
「柄付き爆雷……接近してソレを使ってくるのはなかなかの度胸」
 クロムも、マズルスパイクで爆雷を持つ腕を殴って逸らすという、荒技をみせる。いくつかは敵もろとも破裂した。爆風をジャケット越しに受けて少しでも軽減し、態勢を崩さないように防御姿勢をしっかりと取る。
 こういう場合、小型化による被弾面積の低下は役に立つ。
「リロード……汎用モード」
 ギリギリの間合いでクロムは、パラドクス弾頭を連射した。
「近接での銃撃、それがクロムの得手。少しでも得意な間合いで仕掛ける」
 JK型海防艦は悲鳴もあげず、幾人かは万歳のように両手をひろげて銃弾を受けたまま、海中へと沈んでいった。
 ラキアも、しっかりとした防御態勢でトループス戦を切り抜け、アヴァタール級『キャバリアガール』の姿を睨む。
「次の行動に備えよう」
「此方の情勢を別方面の情勢と合わせて考慮することも、危険な可能性有り。それすらも込みで翔鶴が考えているなら、やはり最速で攻め込むのが最善手」
 クロムはまた、抑揚なく喋る。

 遠目には、落ち着いた様子だった。
 アヴァタール級冥海機が配下たちを弔っている、ようにも見える。巨大化したクジラ型海戦装はともかく、活動的な恰好に似つかわしくない。
「『翔鶴』様、ウチのコたちは勇敢に戦って散りましたですよ。あのディアボロスたちは全て、わたしが滅します……」
 ひとりごとを言う『キャバリアガール』の傍らで、海中からなにかが飛び出す。
「部隊を潰され、静かに怒るか、クロノヴェーダよ!」
 レイジ・ラージュ(緋の憤怒・g05744)だった。
 このレジスタンス諜報員は、冥海機を相手に隠密潜航していたのである。
「湧き上がる怒りこそ我が力だ……!」
 『憤怒の炎(イーラ・フレア)』で、みずから火だるまとなる。熱に耐えながらの突貫なのだ。
「オマエも燃えろ!」
ディアボロスの手伝いはいらない。はらわたなら、煮えくり返ってるんだから!」
 クジラ型海戦装がジャンプしてきた。
 ずんぐりとした頭部にぶつけられる直前、レイジは炎を腕に集中し、本体である女性型へと投げる。
 奇襲と同じく、隠密にもどるのも早い。
 おそらくは、海戦装との衝突で海に没したのだろうが、そう見せかけてまた潜んでいるかもしれない。
 『キャバリアガール』は、周囲を見回し、ふたつのことに気がついた。
「いつのまに……」
 水兵服の襟に火がうつっている。消すことは容易かったが、くすぶり続けて瘴気のようなものが立ち昇ってきていた。
 さらに、海上ディアボロスたちが、思いのほか接近していたのだ。
「残念だったな。この戦場に私が加わった以上、勝手はさせん」
 インセクティアの無双武人が、両刃の直剣で斬りかかってくる。
 スピードを重視し、最短最速でもってことを成す。陳・桂菓(如蚩尤・g02534)は、先行する仲間の方針に共感していた。
 アヴァタール級はまた、クジラ型に命じる。
「ホエール……プレッシャー!」
 海戦装の背中は、いわゆる飛行甲板のように平らだ。それを盾のように使って、桂菓の斬撃を防ぐつもりだ。
「……龍泉宝剣『七星』よ、『無』を宿せ!」
 刃が当たる瞬間に、空間ごと甲板を削った。
「ま、まだまだ大丈夫ですから!」
 両断するには至らず。
 傷のついたその面に、スカートをひるがえして乗っかると、『キャバリアガール』は海の上で蛇行を始める。
「お前、逃げるのか?」
 水面走行で追う桂菓。振り返って答える、アヴァタール級。
「まさか! 侮ってはいけないと言われてるの。それほどの速さを持つなら、こっちも対応しようってだけ!」

 クロム・エリアル(近接銃士・g10214)は銀色の瞳に、白い艦影を映した。
「……敵、捕捉。目標、キャバリアガール」
 あたかも、冥海機の蛇行をデータ化しているかのようだ。連れ立っていたラキア・ムーン(月夜の残滓・g00195)ともども足を速めた。
「残るはアヴァタール級のみ、一気に突破しよう。敵の反攻作戦を潰すより先に、翔鶴の首……貰い受ける。邪魔はさせんさ!」
「単艦なら後は押して行くだけ。作戦行動、開始」
 ふたりは、二方向に別れた。
 まずラキアが、敵と正面から相対する。『《RE》Incarnation』を構えて。
「配下との戦闘の時点で分かっているだろう? 貴様等の上司が出した提案には乗らん。此方は、硫黄島を攻略させて貰う!」
「ご心配なく。話の解るディアボロスさんもきっといるわ。あなたたちは沈めていいんだから」
 海上を走る者と、滑る者。
 銀髪と金髪のロングヘアが、行き違いになった。
「ぐっ……!」
「きゃう!」
 わずかに接触して、身体を傾けさせる。
「双銃『Libra』……リロード。『Ex.Bullet.Shell』……装填」
 引き波の内をつき、クロムが低い姿勢で回り込んできた。
 冥海機の側面を目指し、じわじわと距離を詰める。相手も気がつき、波を大きくさせた。
「『珊瑚海の意地』よぅ!」
 海水の塊をぶつけてくるつもりだ。
「敵の波による攻撃を確認。……クジラでサーフィンは常識外れ」
 冷静に分析するクロム。
「水も大概大質量、パラドクスなのが厄介」
 とりあえず波には逆らわず、当たると同時にエフェクトを切った。あえて、小さな身体で波に飲まれる。
「ぷ、ふぁ……」
 再び、クロムが海面に戻り、効果を再使用したときには、引き波をくぐって反対側に出ていた。キャバリアガールは蛇行していたので、今度もターンの内径へと、位置取りに成功する。
「随分と薄着。最近暑いから、少し羨ましく感じる」
 狙いをつけるためには、標的をよく観察せねばならない。
 雑多な情報だが、水兵服の襟に、味方がつけた『ロストエナジー』を見つけられた。ラキアと交差したときにバランスを崩した原因かもしれない。
「……身体への被弾面積を考えると、少し怖い。やっぱり、羨ましくは無い」
 セパレートになった服よりも広く、散弾による面攻撃で確実に当てにいく。可能な限り距離を詰めてから、パラドクス弾頭を連射した。
「よ、避けれない、きゃあ!」
 数か所にわたって負傷させられたキャバリアガールは、クジラの背から脚をひろげて落っこちた。
 クロムと入れ替わりに、とどめを刺すつもりで落下地点に向かったラキアだが、敵が乗り捨てた海戦装の位置をすぐに察する。
 直上だ。
 クジラの腹が圧殺にくる。
 横に跳躍する、ラキア。更に、槍を上方で斜めに構え、上から来る力の流れを少しでも斜め方向へと受け流す。
「ただ押し潰されるよりかは、マシさ!」
 巨体は横倒しになり、甲板に控えていたネコ型飛翔体は、にゃーにゃー鳴きながら海へと滑っていった。そして、アヴァタール級冥海機『キャバリアガール』もずぶ濡れで、少し離れたところに浮上してくる。
「どんな搦手を企もうとも、我等は正面からそれを打ち破る!」
 宣言の後、ラキアは水面を蹴って突撃する。
 槍を突き出し、『Call:Elder_Lance(コール・エルダーランス)』を起動する。『《RE》Incarnation』の全体に魔力が付与される。
 高めた魔力を乗せ、貫通撃を叩き込んだ。
「げふ、ううう……」
 穂先は、むき出しの腹に刺さっている。ラキアはその体勢のまま飛翔した。最大加速で持ち上げる。
 仲間のディアボロスたちが見上げる空で、『キャバリアガール』は爆発四散した。
 振ってくる破片を分析しつつ、クロムは呟く。
「翔鶴が此方に渡そうとする情報は、もしかしたら有益かもしれない」
 アヴァタール級の絶命は確実。
「けど、元々は得る見込みの無かった物。プラスアルファに、過剰な期待はしない。それにクロム達は有るもので十分に戦える」
 四倍の破壊力付与に、ラキアの槍はまだ輝いていた。
「此処で判断を迷わす策を打っている時点で、正面からの戦力は此方が上回っているのは明白だ。なら取るべき手段は分かっている」
 硫黄島の方角を突く、穂先。
「このまま決戦に持ち込む!」

『チェインパラドクス』(C)大丁/トミーウォーカー

 

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