大丁の小噺

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全文公開『【ヤマタノオロチ軍団決戦援護】待機組』

ヤマタノオロチ軍団決戦援護】待機組(作者 大丁)

 

 イグサの生え広がる泥土。低木がまばらに立つ。
 葉の茂る木のてっぺんに、怪鳥の姿があった。枝を掴むかぎ爪は鋭く、しかし胴体から尾にかけては鱗の生えた蛇。翼は、たたんでいても大きいとわかる。
「いつまで、待たせるのか」
 クチバシが動いてしゃべった。
 だが、顔全体は人面といったおもむきだ。
「いつまで、もだ。太郎坊様のご命令が下るまでは」
 水辺から別の一羽が飛びたち、手近な木にとまって、最初に疑問を呈した一羽と相対した。
 それを契機に次々と、沼地にわめき声があがる。
「いつまで?」
「いつまで……!」
 しびれを切らした怪鳥たち、『以津真天』は鳴き、さえずる。羽音をたて、草を揺らし、ほうぼうの木にとまる。
 誰かが命令を受けにいくか、自分たちだけで戦う相手を探すか、あるいは泥に身を伏せて待ち続けるか。
「いつまで~」
「いつまでッ!!」
 まさしく、烏合の衆のトループス級妖怪は、いつまでたっても話がまとまらないのであった。

ごきげんよう。淀川に繋がる湿原地帯に集結していたヤマタノオロチ軍団を襲撃、その弱体化に成功いたしました」
 新宿駅グランドターミナル。
 プラットホームには、『平安鬼妖地獄変』行きのパラドクストレインが到着し、車内では、時先案内人、ファビエヌ・ラボー(サキュバス人形遣い・g03369)が依頼の説明をはじめている。
「皆様には、続く大妖怪らへの決戦を、援護していただきます」
 頷く、ディアボロスら。
 大妖怪ヤマタノオロチに、その副官である、ジェネラル級の妖怪『愛宕太郎坊』、破壊と虐殺の鬼神『大嶽丸』。これら大物との決戦を行う仲間を有利にするべく、当方は周囲に残るヤマタノオロチ軍団のトループス級を引き受ける。
「沼地で待機中の『以津真天』は、数こそ多いものの指揮がとれておりませんわ」
 そこへ攻撃を仕掛ければ、やつらはジェネラル級の護衛に向かうか目の前のディアボロスと戦うべきかで混乱するはずだ。
「多くの敵を素早く撃破することで、決戦に挑むディアボロスをより有利にできます」

 敵妖怪の、声による攻撃、そして爪と羽針への注意を呼び掛けたあと、ファビエヌは笑顔に戻って言った。
ヤマタノオロチ軍団を崩壊させれば、長岡京周辺の安全が確保できるようになるでしょう。……ごいっしょにイイコトしましょ♪」

 沼地の探査ならば。ベアストリア・ヴァイゼンホルン(復讐者は狂気を纏うのか?・g04239)はフライトドローンを用意した。敵集団の中央を狙って、真っ先に攻撃を仕掛けたい。強襲するなら、空からだ。
 ひとくち乗ったディアナ・レーヴェ(銀弾全弾雨霰・g05579)らは、早々に浮く足場から飛びおりる。
 ドボン、バシャーンと沼地に続けて水音がした。
「い、『以津真天』だ」
「いつまで? 今、この瞬間で終わりよっ!」
 泥だらけの軍服が、大喜びで上体をあげた。ディアナはそう口走るだけのことは、ある。潜った一瞬の隙に、罠は仕掛け終わっていた。『以津真天』らは、イグサの間で羽ばたき、例の泣き声をあげて、互いにしつこく質問しあった。
 奇襲は成功だ。
 佐島・真己(暗闇の中の光・g01521)は、ダマスカスのナイフを妖怪の背後から突き立てた。
 すぐさま位置を変え、別の一体の脇にまわって、そいつも仕留める。
 視界の効かないはずの戦場で自由に動けるのは、上から地形を見てたから。そもそも、トループス級の集合場所にドローンで向かう提案も、真己のものだ。
「ジェネラル級を倒すのが楽になるんだ。ギリギリまで攻めて攻めて攻め抜いてやる!」
「これこそ好機ですね。一体でも多くの敵を殺しておきましょう」
 終夜・香宵(闇夜・g00869)は殺気をみなぎらせる。それは『以津真天』とて同じ。いつまでと喋りながら死に招き、クチバシから精神汚染の攻撃をする。
「いつまで、いる気だ?!」
「いつまで、闘うのか」
 沼地は騒然となっているが、鳴き声で応戦できてるトループスはマシなほうだ。
 本当にいつまでこの沼地に留まるのか混乱し、草より高く首を出して見回すウカツ者を、香宵は、爆破する。
「この一球でさよなら葬らんを決めますよ」
 バットのフルスイングで打ち出された黒い球が、魔力の爆弾になっている。
 吹き飛ばされた鳥の落ちた水辺。そのカサが増してくる。
「い、さっきまでより深い、いつまで留まれば……」
「だから!今だったら! いつまでって何回聞けば気が済むのよー!?」
 律儀に答えたディアナが、胸まで泥水につかりながら、立っていた。右手は合図に高々とかかげ、ディアボロスの仲間たちは再びドローンに拾ってもらって、退避だ。
 『懸河混沌の計(ケンガコントンノケイ)』の罠が作動し、沼地を洪水が襲った。
 飛びそこなった鳥妖怪は、翼を波間に覗かせて流されていく。
 タイミングを合わせて真己は、ナイフへと不屈の炎を纏わせた。
 空中に逃れた『以津真天』は、まだ無数にいる。混乱のさなかにあるようだが、一斉に反撃してこられたら、ドローンの機動力では、あの巨大な翼には太刀打ちできない。
 苦しい状況かもしれないが、だからこそ、『暗闇の中の光』には、勝機があった。
「我慢比べなら負けない」
 心の奥底から湧き上がってくる力が、武器の炎を大きくする。
 それは、以津真天の精神汚染をも跳ね返し、切っ先は妖怪の羽を切り裂いた。
 香宵は、戦線を離脱しようとしている敵に、『爆撃剛打(バクゲキゴウダ)』を放ち続ける。もはや、サヨナラの一球ではなく、ひとり爆裂打線だ。
「ようやく、ヤマタノオロチらを殺す機会を得ることができましたから。合流なんて許しませんよ」
 この場だけでなく、今日まで繋いできてくれた、仲間たちの努力のおかげだ。
 黒球に爆発する以津真天は、空中にあっても、沼地に閉じ込められたようなもの。
 洪水で葉っぱまで沈んだ低木の先に止まる個体もいる。そして、それらはまた相も変わらず、言い合いをしていた。
 ヤマタノオロチは不死身だ。自分たちが応援になど行かなくても、きっと勝つ。
 一羽が豪語しても、すぐに反論が飛ぶ。それはいつまでか、と。
 ドローンの上に立ちながら、ベアストリアも呆れた声をあげた。
「烏合の衆……とは……この事ね……」
 確かに、文字情報で知ったヤマタノオロチには、ヒュドラみたいな再生力がある。だが、鳥たちの紛糾に付き合う気はない。
 ちょいと、スカートの裾を持ちあげると、中身は『高機動型誘導反応弾【Sturmvogel】(シュトゥルムフォーゲル)』が鈴なりだ。
「最後まで気を抜かずに……一兵たりとも逃がさないように……ね……ふふっ……♪」
 発射された飛翔体は、言い合う鳥を追って撃破していった。
 水かさが戻るのを待って、メルセデス・ヒジカタ(冥腐魔道・g06800)は、草地に戻る。
 手負いの『以津真天』たちも身を隠そうとするが、それにはクチバシを閉じねばならない。
「ご安心ください。あなた方がピーチクパーチク泣き喚けるのは、今日のこの瞬間までですから」
「ファビエヌちゃんとイイコト、しましょう!」
 シンシア・クロムウェル(ムーンライトシープ・g05392)は楽器武器『ワンマンオーケストラ』を奏でる。メルセデスも刀を振るうが。
「今日は短期決戦の機動力重視なので、かけ算ヤってる時間がありませんし……敵も運がよかったですね?」
「それじゃ、めくるめく百合色フェスティバルは……? イイコトって、こういう事なのね……」
 シンシアが、はふっとため息をつく。
「まぁまぁ。残る敵は私たちで叩き斬ってしまうんですもの。……大妖怪の援護になんて、行けないくらいに」
 ウインクでご褒美があるかも、と伝える。などと、趣味の垣根を越えた女の子どうしのじゃれ合い、と見せかけて。メルセデスは『戦覇横掃』で敵を薙ぎ払った。
 虚実を交えた前後左右の足さばきが、泥土のうえでも軽やかに駆ける。
「精神汚染? こちとら、すでに汚染済みでしてよ? 腐って、かけ……」
「私の妖刀に吸わせるぶんも、取っておいてくださいね」
 湯上・雪華(悪食も美食への道・g02423)は、不穏な会話を、ぶっそうな言い回しで遮った。
 トループス級の妖怪たちは、ここへきて死の声さえも震えて出せないと、ようやく理解した。さえずりをいくら重ねてもディアボロスには勝てない。
 正攻法でカギ爪を尖らせ、いまいちど急降下で襲い掛かる。
 雪華の着物に食い込み、絹の羽織がむしり取られた。
「くっ……!」
「はわ、イイコト!?」
 シンシアは思わず、歓声をあげたが、すぐにかぶりを振って、演奏に集中した。
「私はディアボロス、為すべきことを為しましょう」
 男性とは思えない綺麗さに、残る敵の急降下が集中している。どちらかというと、メルセデスの担当か、それとも違うか。
 多少はブレながらも響かせるのはピアノの調べ。
 瞬き一つ、指先一本、微笑みすら、魔性の音色へと変えて。
 千の針に穿たれ血を流そうと微笑み絶やさず、万来の喝采へと変えて。
 これは、返歌だ。
 打ち捨てられた骸を憐れむアヤカシたちに、弔いの鎮魂歌。
「いつまで?」
「いつまで!」
 歌が、鳴き声を誘発した。サキュバスサウンドソルジャーは答える。
「今こそ」
 雪華にたかっていた『以津真天』の一団は、糸が切れたように散って、泥に自らの骸をしずめた。
「……女の子成分が欲しいわ」
 どっと、疲れた様子でシンシアが見ると、倒された敵はピアノの音によるものばかりではなかったと知れた。雪華はあえて爪をくらってトループス級を引き寄せていた。
 虚ろを抱き、渇望の呪いを宿す妖刀。
 一太刀確殺で、始末していたのだ。
 この沼地の待機組を、留めておくため、そして……。
「すべてはこのディヴィジョンを取り戻すために」
「あんた、いい我慢比べだったぜ」
 真己が手を貸し、地上にいた仲間をドローンに引き上げた。
 決戦は続いている。
 援護隊は平安の空に舞い上がった。

『チェインパラドクス』(C)大丁/トミーウォーカー

 

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