大丁の小噺

大丁です。読み方はタイテイが標準です。※大丁は、株式会社トミーウォーカーのPBWでマスター業務を行っています。ここで関連する告知を行うことはありますが、マスター契約時の規約により、ゲームに関するお問い合わせは受け付けられません。ご了承ください。

全文公開『パリ周辺に出没? 天使っぽい悪魔』

パリ周辺に出没? 天使っぽい悪魔(作者 大丁)

 『パリ湖』。
 ディアボロスによって、『断頭革命グランダルメ』から最終人類史に奪還された、パリ跡地の『海』だ。
 その畔へと、長衣姿に翼を持つ、『天使』っぽい集団が近づいていた。
「TOKYOを追い出された時は、どうなることかと思ったよ」
「来てみれば、このグランダルメは不思議と落ち着くぜ」
「自動人形も都を奪われて困っているらしい。我らとしても、土地の再奪還にむけて協力しあうのは悪い話ではない」
「オレたちだって、『畏怖』を集める一環として、人間を『処刑』したりしてたしな。うまくことやっていけるだろ」
「しかし、肝心の境界の霧とやらが、さっぱり出ておらん」
 このクロノヴェーダは、天使をかたどった彫像。
 エゼキエル時代には頻繁に目撃されていたトループス級、アークデーモンたちである。

「攻略旅団の提案により、最終人類史に奪還した、断頭革命グランダルメの『パリ湖』を伺う、少数のクロノヴェーダの姿を発見することが出来ましたわ」
 ファビエヌ・ラボー(サキュバス人形遣い・g03369)は、時先案内をはじめた。
 ぬいぐるみたちに地図を広げさせる。
「懸念された、パリの奪還といった軍勢規模ではありませんが、パリ湖の様子を伺い、報告するような役目を持っているようです。さいわい、現時点でパリ湖の周囲に、ディヴィジョン境界の霧は確認されておりませんが、敵の目や耳を潰しておくのはイイコトです。現地に向かい、様子を伺っているトループス級アークデーモンピグマリオン・プッティ』を撃破してくださいませ」
 ここのところ、資料が大部にわたるような依頼が続いたが、今回は地図が一枚。
 敵の居場所が記されているだけだ。
 襲撃して戦闘して撃破するという、力任せの方法でも充分に目的を果たせるとのことだった。

 ファビエヌは、見送りの準備をする。
「天使っぽい悪魔ですけれども、敵勢力圏を調査させられる、下っ端のトループス級なことから、予知の内容以上の情報は持っていないと思われます」
 プラットホームから笑顔で手をふった。
「地味な任務に感じられた方もいらっしゃるでしょう。こういった警戒活動が、大きな事件を未然に防ぐ事に繋がりますわ。報告をお待ちしております」

「勝利へと至る道は地味によって舗装されている」
 風祭・天(逢佛殺佛・g08672)がキリッとして言った。
 パリ湖を背にしたディアボロスたちは、揃ってぽかんと口をあけ、仲間の美形を眺めた。
「え、ダメかな~? 名言っぽくない?」
 真顔をすぐに、ギャルっぽい態度へと変化させる。そんな天に、ハニエル・フェニックス(第七の天使・g00897)が遅れて笑いだす。
「ハニィちゃん、そんなのはじめて聞いたー♪」
「……シンプルな戦闘、将来への憂いをあらかじめ払っておくって事だね」
 ぼんやりしたまま、白臼・早苗(深潭のアムネジェ・g00188)は『名言』を解説してしまう。
「うんうん。今回の部隊は普通の人に悪さしようとしてるんじゃないみたいだけど、見逃してわざわざクロノヴェーダを有利にさせてあげる事も無いよね」
 ハニエルは何度も頷き、笑って出た涙をぬぐう。
「そーそー☆ トループス級をぱおんすればおけ。よしゃよしゃ、全力でゴーゴー☆ ウェイ☆」
 天の掛け声に合わせ、仲間たちはそれぞれなにか手でサインを返した。
「場所も目星がついてるなら、ギリギリまで身を隠して、不意打ち攻撃がベストかな」
 早苗の作戦を採り、しばらく待機していると、数体の石像が姿を見せる。
「あー、前にいたいたこーゆーの」
 ひそひそ声のハニエルが、口を尖らせた。
「天使の評判落ちちゃうから、その姿で悪い事しないで欲しいんだよね! まぁTOKYOじゃ悪者の天使もいた訳だけど……そこはそれとして」
「念のため他のクロノヴェーダとの連絡手段を断っておくよ」
 『通信障害』を展開した早苗は、さらに薄めたサキュバスミストも流していく。
 これは、『蝕む毒蝶の鱗(ムシバムドクチョウノリン)』であり、吸った相手は気付かれないうちに感覚が鈍くなるのだ。
「うん? ……あれ、どうしたんだ?」
「おいおい、しっかりしろよ。逃亡生活でまいってんのか」
 天使の石像の一体が、こめかみを押さえて呻いた。同輩が、その肩を叩いている。
「人間じゃあるまいし。パリを奪ったディアボロスが、どこからか攻撃してきた可能性もある」
 なかなかに鋭い連中だ。
 トループス級アークデーモンピグマリオン・プッティ』は、『ウィーピング・クピド』を使って小柄な天使像を呼びだし、頭数を増やした。
 そのあいだにも、早苗の毒はじわじわと影響を強めていく。
「境界の霧とやらではあるまいか」
「ああ、まるで方向を失わせる霞みたいだぜ」
 敵への効果を確認し、ハニエルと天は、潜んでいた場所から飛び出した。
「とゆー事で、ばーっと行ってちゃちゃっとやっつけちゃおう」
「斬り込みゴー☆」
 駆けながら、各々の武器を構える。
 ハニエルの両手からは、光の剣が生み出された。天は、二振りの日本刀。
「『破鏡不重照 落花難上枝』……!」
 さらに、結界術を用いて、トループスの周囲に筒状のものをいくつも召喚する。
 小柄の天使像、キューピットは、嘆き悲しむような声をあげた。ディアボロスたちが出てきた場所にむかって、矢を射る。
「既に罠にかかってるよ」
 早苗は身を隠しながら、毒蝶の鱗を撒き続ける。
 キューピットの斉射は激しいが、本体であるアークデーモンたちの身体が蝕まれているのなら、命中率も相応に低い。
 ピグマリオン・プッティは、翼を広げて空中に舞い上がった。
「空を飛ばれたって、攻撃する時に降りてくるならこっちのもの。やっつける!」
 ハニエルは、光剣を下段ぎみに持ち替える。
「ざぁぁぁん!」
「ぐわ、俺の羽ぇ!」
 『プッティ・ダイブ』が決まりきる前に、『エンジェリック・ザン!』が天使の片翼を斬りとばす。
「やっぱりディアボロスだぜ!」
「いいだろう、このグランダルメで雪辱をはらそうではないか」
 アークデーモンたちは高度をあげ、円を組むようにして周回しはじめた。天が張った結界から逃れようとしている。ハニエルは、いずれ降下してくるとふんで、空飛ぶ石像を見上げた。
「ハニィちゃんの不意、打てるもんなら打ってみて!」
「私は、『驀直去』でカバーな何時ものヤツ☆」
 一列に並んでトループス級がダイブしてくる。
 光剣の斬撃と、虚空に発現する陰陽太極図が、ピグマリオン・プッティの急襲を弾き返した。低空にはいって、陣形がくずれたところへ、天は刀を振るい、素早く縦横無尽に敵中を駆ける。
 結界、『肆式疆域守節(シシキキョウイキシュセツ)』のなかへと、敵を放り込んだ。
 召喚されてきたのは、雑多な種類の重火器だ。
「大目的達成のベストって感じ☆」
「オ、オレたちは、ここで倒れるのか?!」
 四方八方からの銃撃をうけ、数体のアークデーモンが、その石造りの身体を破片にかえた。
「絶対やり返してやるんだから!」
 ハニエルがおでこをおさえている。
 さっきのダイブ時に、斬り損なった相手から一発もらったらしい。素材ゆえ、当たればとても痛かったのだ。
「下から剣を投げつけちゃう!」
 石像のいくつかが、翼を羽ばたかせて上昇を試みる。
 光の剣は追いすがり、撃破していった。
「パラドクスって、何本でも出してどんどん投げられるのが良いよね」
 残ったピグマリオン・プッティは、早苗のミストに、もはや飛ぶこともできなくなり、地面を這っていた。
「くっ、何の成果もだしておらん。自動人形たちに我らを認めさせるには……」
 まだ、喋れる個体が悔しがる。
 そうした反応の一切が消滅するまで、天の重火器の射撃音は続いた。
「よしゃよしゃ、全滅に持って行く流れになるよー☆」
「ずーっと空飛んでる子は、いなくなったかな?」
 ハニエルが、目の上に手をかざしている。
 天も、倒し残しが居ないか周囲を再確認した。早苗はさらに、何か他のクロノヴェーダとの繋がりが無いかを調べる。
「彼らの扱い的に期待薄かなぁ。グランダルメにはもうそこまで回りくどい策を取る余裕は無さそうだし」
 実際、パリ湖はいたって平穏だ。
 ディアボロスたちは帰還することとした。天の言う、舗装された勝利の道かはわからぬが。
「完全終了だね。おつおつ~☆」

『チェインパラドクス』(C)大丁/トミーウォーカー

 

tw7.t-walker.jp