大丁の小噺

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全文公開『【大戦乱群蟲三国志奪還戦】冥海機たちの偵察』

【大戦乱群蟲三国志奪還戦】冥海機たちの偵察(作者 大丁)

 黒髪の女性は、赤い瞳から光をほとばしらせた。
インディアナポリスの上陸作戦は成功しそうという事ですか」
「ハイ……」
 報告にきた配下は、ニィっと口の端を持ち上げる。彼女の目元は頭部の装備に隠れて見えない。
「どうやら、ディヴィジョン境界を守るジェネラル級は存在しないようですね」
 『大戦乱群蟲三国志』を臨む、海上でのことだ。
 このクロノヴェーダたちは、いずれも女性の容姿と艦船を思わせる装備を一体化させていた。黒髪女性は、そのジェネラル級だ。
「しかし、排斥力の急激な低下には何か理由がある筈です、しっかり警戒を行い、正確な情報を持ち帰るべく尽力してください。大本営は、正しい情報を心待ちにしている筈ですから」
「ハイ……」
 配置に戻るトループス級は、まるで上半身裸のように見え、それでいて下半身は艦船の寸詰まり。例えば一人用カヌーに乗っているというわけではなく、腰から下が直接メカなのだ。
 彼女たちは大群をつくり、波に揺られている。

「さっそく、【飛翔】の性能強化を生かす機会が訪れましたわ。『大戦乱群蟲三国志』においても、奪還戦がはじまります」
 ファビエヌ・ラボー(サキュバス人形遣い・g03369)は、頬を紅潮させた。戦争の前で、いつもよりテンションがあがっている感じだ。
 人形のおチビさんたち、ジョスとジュリが戦場マップの端を掲げて広げる。
「大戦乱群蟲三国志は、曹操劉備孫権の三英傑を争わせる事で、強大な断片の王を生み出し、七曜の戦の勝利を目指していました。しかし、ディアボロスは、三英傑の一体『呉王・孫権』の撃破に成功、更に三国最大勢力であった『魏王・曹操』を撃破する事にも成功したのです。孫権曹操の撃破により、消去法的に『蜀王・劉備』が断片の王に覚醒しましたが、その権力基盤は弱く、排斥力の低下により、周辺ディヴィジョンの侵略を許してしまったようですわ」
 すでに衝突している相手や、情報を探っている対象、そして見慣れぬ敵の数々。
 ファビエヌは差し棒を操って、『劉備』の目論見を暴く。
「まず、『魏への北伐』と『呉への東征』を宣言。諸葛亮に『出師表』を読み上げさせると、史上最大規模の大戦乱を引き起こすべく全軍に出動命令を下しました」
 大戦乱により、魏や呉の領土内の全ての人間を殺し尽くし、そこから生まれるエネルギーと、その死体を利用して生み出すトループス級の大軍勢で、隣接ディヴィジョンからの侵略者とディアボロスの双方を討ち取ろうというのだ。
「もちろん、このような暴挙を許すことは出来ませんわね。劉備が、大戦乱を引き起こす前に『大戦乱群蟲三国志奪還戦』を仕掛け、大戦乱から人々を救いつつ、中国大陸の最終人類史への奪還を目指しましょう」
 今回の依頼は、ファーストアタックだ。
 中国全土で大戦乱を引き起こそうとする蟲将の軍勢と、周辺ディヴィジョンからの侵略者の軍勢に対して、戦争直前に攻撃を仕掛けて戦力を削る事で、戦争の機先を制する事が出来る。
「敵は大戦力である為、引き際を間違えず、充分な打撃を与えたらすぐに撤退する事が重要になりますわ」

 時先案内人は、戦場マップ右側の上下を指した。
「吸血ロマノフ王朝は、本気で戦いに介入するつもりは無さそうですね。『冥海機ヤ・ウマト』も、威力偵察の延長というところです。この、艦船型クロノヴェーダ勢力については、わたくしたちディアボロス側からも『TOKYOエゼキエル戦争』のディヴィジョン境界を通じて情報を集めてきましたが、まだまだ謎が多いですわ。……とはいえ、お名前が判ったのは、イイコトですわね♪」

 沖合に波が膨らみ、それにつれて灰色の影がいくつも見えた。
 海上で下車したディアボロスたちは、『飛翔』をいくつも足して向かって行く。『大戦乱群蟲三国志』を見張っているだろう敵に。
「情報を持ち帰るのは、こっちだって同じだよ」
 月下部・鐶(さいつよのお姉ちゃん・g00960)は、白いキャンバスを顔の前にかざす。
「すっかり丸裸にして戦場で徹底的に叩いてやるんだから!」
 彼女こそ、露出度高めのスタイルだが、水着ではない。
 束縛からの自由をめざすタマキ流のファッションだ。河津・或人(エンジェルナンバー・g00444)は形式どおり、理路整然としている。
「まぁこのゲーマーにお任せあれ、ってな」
 ハッキングツールの『パラドクスエミュレータ』は、銃とも剣ともつかない形状である。
 操作する或人は落ち着いた様子。けれども、名前が判明したばかりの新ディヴィジョンについて、早く分析してみたい。
 ふたりの挙げた任務に加えて、エヴァ・フルトクヴィスト(星鏡のヴォルヴァ・g01561)は。
「今の私達でどこまで『冥海機ヤ・ウマト』と相対出来るかは分かりませんが……。可能なかぎり戦力を削って威力偵察の妨害をさせて貰いますよ!」
 連携を密にすべく、『パラドクス通信』を開いた。
 短く返事がはいり、メンバーは散開を始める。
 青い、紋章のような翼を広げて、デーモンの渕上・澪乃(月の番人・g00427)が上昇していった。後に続く、峰谷・恵(フェロモン強化実験体サキュバス・g01103)は、伝統的なコウモリの翼だ。
 空に吸い込まれるようにして、ふたりは高度をとる。
 無双馬『綾目草』に跨ったままの瀬鍔・頼門(あかときの影ぼうし・g07120)は、下降した。
 航空突撃兵、伊藤・芳男(自称戦闘機乗り・g04524)の機影も眼下にあり、水着姿の月城・木綿紀(月城家三女の【裁縫】の魔術師・g00281)も下がる。
 頼門と芳男は、波のかかるギリギリのところで加速して、超低空飛行に移った。
 木綿紀は、そのまま海にドボン。
 オウム貝型ドローンの『ボビン』を放った影だけが、透かし見える。通信によれば。
「水中から一択かな……こっちは潜水艦イメージだし……」
 と、いうことだ。
 無双馬と航空突撃兵が、敵艦隊に近づいた。
 頼門は、手綱を操って『綾目草』の鼻先を振り、トループス級の砲撃の的にならないようにする。
「いずれぶつかり合う日はくるであろうが、こちらもできうる限りの情報を得なくてはな。冥海機とやらの手応え、見せてもらおう」
「あれも……艦艇に見えないこともないか、ファイター1-1、攻撃開始!」
 芳男は引き続き、海面すれすれをなめるように飛翔したあと、やはり左右に微妙に機体を揺らして、敵の照準を惑わしていた。
 『メタルクルーズ』たちが、艦首滑空砲を連射してきたのに合わせて、急上昇をかける。いっぽう、頼門と無双馬は低空を維持したまま突っ込んだ。
「駆け参る……、『春日ノ御太刀(カスガノオンタチ)』!」
 太刀に雷電を纏わせ、神鹿の駆け跳ねるが如く斬りかかった。喫水線より上にある部分に、刀傷がつく。
 転覆したその一体に構わず、トループスたちは陣形を保ったまま、砲撃を繰り返す。頼門は無双馬と共に身を翻したが、回避しきれない。
 なんとか、鎧の大袖で砲弾を逃がしたくらいだ。
 平安の鬼狩人が敵を引き付けているあいだ、航空突撃兵は『木の葉落とし』を仕掛けていた。敵艦の真上で失速機動を行い反転、艤装のうち、生体パーツめがけて急降下爆撃を敢行する。
 船の形の部位と、違いがあるかは判らなかった。
 芳男は、そのまま一撃離脱して、彼女らの対空砲の範囲外に一気に逃げる。数体、あるいは数隻は仕留めたはずだ。頼門も太刀をふるって敵を引かせると、『綾目草』ともに上昇に転じた。
 冥海機につけた傷から電光がとんでいる。
「通信妨害になっていれば、いいのだがな……」
 仲間に報告を入れると、声と同時に高高度に、デーモンとサキュバスの翼も見えた。彼と彼女も敵艦の頭上をとるつもりだろう。
「あれが艦船型のクロノヴェーダか……」
 澪乃は目を凝らす。
「報告でそういうのがいるとは聞いていたけど、実際に見るとどこか不気味だね」
「うん。それに、パラドクスだからまあいいけど、横、後ろ、上に対応できるのが2つの主砲だけって兵器としてはどうなんだろう?」
 恵はそう言いつつ、コウモリ翼に強化サキュバスフェロモンを充填し、下方へと身体を傾ける。
 紋章状の翼は、高度を維持したまま、氷の弾丸を飛ばした。
「この雨はどこまでも降り続けるよ。『雨月(ウゲツ)』!」
 洋上に、木の葉のように浮かぶ敵に対して、澪乃の弾丸は広く撒かれる。メタルクルーズたちも、左右に装備された『自由駆動二連砲塔』を傾け応戦してくるが、氷は魔力製だ。
 途中で進路を変えて砲弾と衝突させた。その間をすり抜けるように、恵は急降下していく。
 自身でも、『LUSTオーラシールド』を張り、敵艦の砲撃を防いだ。
 落下に上乗せした速度のぶん、手の甲にくる振動も重いものとなる。
「裂き貫けッ!」
 翼には魔力と闘気も溜まった。『魔気裂空弾(マキレックウダン)』として発射する。
 甲高い悲鳴のようなものをいくつか聞いた。身を起こして恵は反転急上昇。
「この敵は今のところ、女性型ばかりだね。……艦船だから?」
 『LUSTビームマシンガン』も取りだすと、牽制の射撃を行いながら回避機動をとる。
 離脱を助けるために、澪乃もフェアリーソード『蒼月』を手に降りて来ていた。
「女ばかりの敵、なのかな……」
「ホントに裸じゃない、ハレンチな敵!」
 鐶の怒鳴り声が、通信にのる。リアライズペインターとして、パラドクスの準備のために敵の姿を描く必要があった。或人はかわらず、クールに観察をし、ガジェットに吸わせたデータを確認すると、ふいに口の端をつり上げた。
「まあ、収集もほどほどに。俺はここいらで、エミュレート結果を試してみるよ」
 飛翔を解除して、自ら落下する。
 水面に着地した。軽い足取りで、『水上歩行』をしている。
「『水掻き要らず(フィンレスグリッチ)』だ。船の子たちは、どうでる?」
 或人だけでなく、メタルクルーズたちの周囲でも波が消えた。一時的に推進力も空回りしているらしい。まさに的で、ツールを変形させてコピーした『艦首滑空砲』を連射した。
 当然、トループスたちは慌てている。
 遠巻きに観察していたエヴァも、混乱の中にも強い殺気があることを感じた。
「海に浮かんでいるだけじゃありませんね。私も水中適応を使わせていただきます!」
 ざぶん、と水に入る。
 まだ、顔を出しているうちに、通信をとばした。
「冥海機は、潜水も得意なようです。或人さんのコピー砲撃を逃れた部隊が、下から私たちを囲いこもうとしているみたいよ」
「僕の位置からも、そう見える。無理せず撤退するよ」
 空襲グループを代表して、澪乃が応えた。
 陣を引くにしても、ある程度のダメージを与えて機会をつくらねばならない。エヴァは完全に潜ると、急接近してくる艦影に『界雷の鎚(ミョルニル)』を放った。
 かつての雷を司る神の象徴。その寓話から雷の力を呼び出し、世界に満たす。
 海中でも同じことだ。いくつかの冥海機が、痺れて動作を鈍くした。
 通信のやり取りを聞いていたのだろう。ずっと、水中戦をしていた木綿紀が、『ボビン』と共に、殿の打撃に加わりにくる。
 『弥針杭打(ミシンバンカー)』は、このオウム貝ドローンとミシン風パイルバンカーによって発動できる、縫合接続を強化したパラドクスだ。
 トループスたちが、空襲されながらも浮遊攻撃に移らなかったのは、木綿紀が海に縫い付けていたからである。
 口元からブクブクと泡を吐いた。
 おそらくは『世界は布、私は糸、表裏を伝い万物を繋ぐ』と詠唱しているのだろう。
 沈みかけのメタルクルーズの艦底にまわると、『エネルギーブレード』ごとパイルバンカーを撃ち込み、下半身の船をぶっ壊した。
 その後は、水着のバタ足が、エヴァにも見えたから、ふたりして陸方向を目指す。
「よーし、敵の姿はしっかり描きとめた! 味方のところに持ち帰るよ!」
 絵筆を振りぬくと、鐶はキャンバスから顔を上げる。
「けど、その前にあたしからも贈らせてもらうからね。作品名……『重力』!」
 乱気流の絵には、鎖が描かれている。
 白い絵の具で鉄環を消すと、現実の海では竜巻が起こっていた。
 縫われたまま沈むもの、解放されたが宙をまってしまうもの。いずれにせよ、偵察のはずの冥海機がいくつも沈没したのだった。

『チェインパラドクス』(C)大丁/トミーウォーカー

 

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