大丁の小噺

大丁です。読み方はタイテイが標準です。※大丁は、株式会社トミーウォーカーのPBWでマスター業務を行っています。ここで関連する告知を行うことはありますが、マスター契約時の規約により、ゲームに関するお問い合わせは受け付けられません。ご了承ください。

全文公開『【大戦乱群蟲三国志奪還戦】蛇亀宇宙からの侵略』

【大戦乱群蟲三国志奪還戦】蛇亀宇宙からの侵略(作者 大丁)

 白い霧に透かし見える群れは、隊列のようなものは組んでおらず、一体、また一体と輪郭を明らかにしてきた。
 肩までの高さが3mもある巨躯をもち、そのかわりに頭部がない。半裸に装飾品を身につけ、胸の筋肉には眼が、腹には口がついている。
 異形の軍勢を率いているのは、『毘沙門天』。
 『蛇亀宇宙リグ・ヴェーダ』からの侵略者であった。
「ここが、仙人どもが逃げ込もうとしていたディヴィジョンか。下等な蟲など踏みつぶし、ここも我らの世界の一部にしてくれよう」
 奪還戦のはじまる『大戦乱群蟲三国志』に達したのだ。
イスカンダルに対抗する為にも、まだまだ力が必要だからな」
 そしてまた、別のディヴィジョンの名も口にする。

「『大戦乱群蟲三国志』においても、奪還戦が可能となりましたわ」
 ファビエヌ・ラボー(サキュバス人形遣い・g03369)も、ちょっとだけ緊張の色を見せる。戦争の前は、いつもこんな感じだ。
 人形のおチビさんたち、ジョスとジュリが戦場マップの端を掲げて広げているのも、おなじみである。
「大戦乱群蟲三国志は、曹操劉備孫権の三英傑を争わせる事で、強大な断片の王を生み出し、七曜の戦の勝利を目指していました。しかし、ディアボロスは、三英傑の一体『呉王・孫権』の撃破に成功、更に三国最大勢力であった『魏王・曹操』を撃破する事にも成功したのです。孫権曹操の撃破により、消去法的に『蜀王・劉備』が断片の王に覚醒しましたが、その権力基盤は弱く、排斥力の低下により、周辺ディヴィジョンの侵略を許してしまったようですわ」
 すでに衝突している相手や、情報を探っている対象、そして見慣れぬ敵の数々。
 ファビエヌは差し棒を操って、『劉備』の目論見を暴く。
「まず、『魏への北伐』と『呉への東征』を宣言。諸葛亮に『出師表』を読み上げさせると、史上最大規模の大戦乱を引き起こすべく全軍に出動命令を下しました」
 大戦乱により、魏や呉の領土内の全ての人間を殺し尽くし、そこから生まれるエネルギーと、その死体を利用して生み出すトループス級の大軍勢で、隣接ディヴィジョンからの侵略者とディアボロスの双方を討ち取ろうというのだ。
「もちろん、このような暴挙を許すことは出来ませんわね。劉備が、大戦乱を引き起こす前に『大戦乱群蟲三国志奪還戦』を仕掛け、大戦乱から人々を救いつつ、中国大陸の最終人類史への奪還を目指しましょう」
 今回の依頼は、ファーストアタックだ。
 中国全土で大戦乱を引き起こそうとする蟲将の軍勢と、周辺ディヴィジョンからの侵略者の軍勢に対して、戦争直前に攻撃を仕掛けて戦力を削る事で、戦争の機先を制する事が出来る。
「敵は大戦力である為、引き際を間違えず、充分な打撃を与えたらすぐに撤退する事が重要になりますわ」

 時先案内人は、いっそう引き締まった表情を見せた。
「南方から来る『蛇亀宇宙リグ・ヴェーダ』勢力は、インド神話の神のような外見をしつつ、手には『呉南方の仙人ディヴィジョンの象徴である宝貝』を持っているようです。情報も少ないですから、お気をつけて」

 ガーベラ・アルストロメリア(緋色の双華・g08775)は、大戦乱に巻き込まれる人々を想う。
劉備の暴挙を許すわけにはいきませんわね」
 霧地帯からある程度の距離をとり、ディアボロスたちは助言通りに観察から始めていた。
「はい。だからこそ、決戦に横槍を入れさせはしません。『毘沙門天』たちが早めにお帰りになるよう、今から一太刀入れておきたいですね」
 ジェネラル級の名を、野本・裕樹(刀を識ろうとする者・g06226)は口にした。下弦・魔尋(淫魔導機忍・g08461)は、『魔導潜望鏡』から顔をあげて同意する。
「そのとおりだよ! ボクら忙しいからとっとと帰って欲しいよね!」
 いまのところ、新勢力『蛇亀宇宙リグ・ヴェーダ』のトループス級は、単独で散らばりながら侵入してくる。おそらく等間隔で広がるつもりが、指揮が徹底せずに偏るのだ。
「少数で行動している『カバンダ』たちを狙いますわ」
 ガーベラの提案に、皆が頷いた。近くに見えるのが、全体から離れて小集団にまとまったトループス級だから。彼女は、専用拳銃『グロックXX』に魔力認証を入れる。
 裕樹が、何振りもある刀を比べるなか、ふと狐耳を立てた。
「それにしても『毘沙門天』とは、平安京にも宝蔵天女という天部の神を自称するクロノヴェーダが存在しましたけれど……こちらが本流という事でしょうか」
「どうかな? 自然に上から目線だし神サマかもしれないけど、戦いが野蛮だとかボクは凄くムカつくー」
 魔尋は風向きを気にしていたので、裕樹の話を聞きながらも、狐耳に引っかかる髪のなびきを眺めている。
「カバンダと言えば雷撃を受けて頭が身体にめり込んだという話でしたね、ならばこうしましょうか」
 選んだ武器は、雷光刀『雷花』。
 鞘から少し抜いただけで、刀身にまとった青白い光が弾ける。いっぽう、徒手空拳の神那岐・修(紫天修羅・g08671)は、己という世界を書き換えた痕跡をいくつも持つ。
「手脚が届かねば己は無能。“『』”にて風も塵も捉えれば戦域全て己の大地……」
 いい風が吹いてきた。魔尋も待っていた追い風。修の呼吸にタイミングをあわせ、仲間たちは一斉に仕掛ける。
「挑んでこそ武というもの、覚悟致せ!」
 修の脚が、いち早く敵の小集団の中へと彼の身体を飛び込ませる。いや、速くてわからなかったが、『飛翔』も使って実際に飛んだようだ。
 追って、アンゼリカ・レンブラント(光彩誓騎・g02672)は、大剣に炎を纏わせる。
「勇気全開、いざ参るっ!」
 3mの巨躯のうち、一体だけを狙って斬りつけた。
「私のパラドクスは反撃を受けるリスクも低いからね。積極的に手を出すっ!」
 太刀筋の炎が目印のように散って、敵からの攻撃を悟り易くなった。仲間もアンゼリカが残した効果を頼りに反撃の機会を得る。
 その『カバンダ』だが、動きは見た目よりも素早いようだ。
「もう仙人のディヴィジョンを滅ぼしたとは油断できないね。イスカンダルのライバル……なのかな? おっと!」
 アンゼリカの腰を、鷲掴みにきた掌を側転で避けた。
「異形の軍勢には、何もくれてやらないっ!」
「おう、漁夫の利を狙ってわざわざちょっかいを出しに来るか……雑兵風情が、偉そうに」
 弔焼月・咲菜(葬不送動の報復者・g01723)は、ただ近くにいたというだけの敵を、妖刀『狩流刃討鶵』で屠った。くず折れた図体の後ろから、次の『アーディティヤ』が同族を踏み越えてきて、『シールドコンバット』を仕掛けてくる。
「首もねぇ肉塊のくせに一丁前に盾なんか装備しやがって。骨ごと真っ二つにしてやる」
 咲菜は、盾での殴りつけを避けもせず、妖刀になおいっそうの怨みを流し込んだ。
「『不倶戴天:無葬狩流刃討鶵(クルーエル・カルバトス)』!」
 咲菜は長身だが、それでも『カバンダ』から攻撃しようとすれば、盾を持つ手が低くなる。狙って袈裟斬りにした。
「残りのやつらも皮を剥いで、害虫の餌に……」
「好戦的な神話生物だ……迎え撃つ」
 実際に戦ってみて、エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)は、不用意な突撃を控えることとした。
 どんな敵であれ打ち倒すのみではあるが、戦況の把握もまた大事だ。
「信仰と聞くとエジプトを思い出す……。裕樹さんが話していたな。俺もインドの伝説に倣ってみよう」
 頭上に電撃を集中させる。
 『ライオニックサンダー』、放電現象が獅子の形をとり、『カバンダ』の名をもつ怪物の、首のあったあたりへと解き放った。
 とりわけ、弱点だったのかは不明のまま。
 しかし、首のない代わりに腹についている口が、大きく開いて牙を剥いている。かなり、憤っているようだ。胸の目が、呪詛のこもった睨みをきかせてきた。エトヴァは指輪から魔力障壁を展開し、『Nazarの盾』もかざして視線を散らした。
 攻撃にさらされながらも頭をよぎるのは、改竄歴史のこと。
「エジプトは解放した。しかし、クロノヴェーダうしの戦争で飲み込まれる歴史もある」
「ほかのディヴィジョンを滅ぼした後?」
 シル・ウィンディア(虹霓の砂時計を携えし精霊術師・g01415)にとっても、仙人たちの土地がどうなったのか懸念はあるものの、眼前の敵の実力に対しても同様だ。
 世界樹の翼『ユグドラシル・ウィング』を遠距離用のtype.Bへと切り替え、誘導弾を連射する。
「かなり気合を入れないと行けなさそうだね。……がんばりますかっ!」
 遠方の飛鳥・遊里(g00512)の力を借りて、合体パラドクスを行う。
「『鏡乱電磁精霊砲(コンフュージング・エレメンタル・レールキャノン)』! リフレクタースフィア展開!」
 魔法陣を敵の周囲に配することで、シルは『デスグランス』を見ることなく、反射された魔力砲撃を当てられるのだ。
「大戦乱群蟲を助けようってわけじゃないからねっ! 咲菜さんも言ってたけど横取りされたら、またディヴィジョンの悲劇が起こるからっ!」
イスカンダルとも敵国、か」
 『媒体』を手にしたフレデリカ・アルハザード(軍勢の聖女・g08935)。
「私たち、ディアボロスにとってクロノヴェーダ亜人と同等の『敵』。平和とは望んで行くものではあるが、強要されるものではなく、信仰の見返りの対象でもない!」
 投げるディスク型は、奇しくも古代インド由来の武器、チャクラムのように飛んだ。
 混めた苛烈さに操られ、『媒体』は首なしの怪物を撫で斬りにする。
「皆さん、後方支援は任せて下さい!」
 フレデリカは、うってかわって柔和な口調で味方を鼓舞する。近接攻撃組は、勢いにのって数体のアーディティヤを撃破した。
 しかしながら、敵の群れは、デカい足を踏み出してくるから、フレデリカは時々後ろ歩きになった。そうでないと、すぐに距離が詰まって、つい巨体を見上げてしまいたくなる。どうせ、胸についている眼球で呪詛を放っているのだろう。
「飛翔して避けるか? いや視線に晒されるだろう。……だったら、自傷を強要させてやる」
 次に投げた『媒体』には、『自傷』の情報が書かれていた。
 刺さったカバンダは魂魄に情報を挿入され、腹の牙で自分の両腕を噛みちぎって昏倒する。
 一連の動きを、レイ・シャルダン(SKYRAIDER・g00999)は、サイバーゴーグル『Boeotia』を起動して超視覚で得ていた。
「なるほど、『ストマックファング』の速度は弱点にもなり得ますね」
 手には蒼き魔力の灯火を、機械魔導弓『ACRO』に番えて引き絞り、向かってくる相対速度を利用して、腹の口へと魔術の矢を放つ。
「盾で防ぐかい? 無理だよ。ボクが狙った以上は必ず当たるんだ」
 『電撃戦の一矢(ブリッツディゾルバー)』は、急所を撃ち抜く権能を持つ。
 喉なのか、胃なのか、巨体は器官を破壊されて倒れた。
 まきあがった土埃にもレイは、手放しには喜ばない。柔和な顔に厳しさをにじませる。
「蟲将による防戦が成り立っている状態とは言え、既に1つのディヴィジョンを滅ぼした、勝利を知っている勢力。他の勢力共に決して油断は出来ないですね……」
 小集団の『カバンダ』は撃破できたが、敵は次々と送り込まれてくる。
 レイがまた超視覚で伺うと、味方はもう少し戦えそうだ。
「引き際はわきまえますが、後の為ここで少しでも敵戦力を減らしておきましょう」
 後方からの判断に関係なく、修は敵陣に突っ込んでいる。
「肉薄すれば周囲全て敵。群がってこようが好都合。己が肉体は戦を逃さず捉え稼働する」
 “圓”の痕跡、“幻”の印章。そして、“瞬”の文様。
 戦の間、淀みなく動けるよう、己を改竄し続けた結果、それらが刻まれる。
「『幻陽(ゲンヨウ)』にて撃つ。見えず聞こえずとも五体全て反応し遅滞はない」
 怪物の腹の牙が、ちょうど拳の届く高さだ。
 修はまさに、それらを残らず打ち払うまで、戦技を尽くした。
 すでに見たように、高速で接近するなら『カバンダ』の腹部は狙いどころでもある。『グロックXX』を構えたガーベラは、冷静にトリガーを引いている。
「不届き者には『氷結の薔薇(フリージング・ローズ)』をプレゼントしますわ」
 氷の魔力が込められた弾丸だ。
 文字通り、くらったアーディティヤは冷気に侵され、胴体から全身へと凍りつかせる。
「綺麗な薔薇には氷があるのですわ」
「別に弱点ではなかったみたいですけれど、相手にするには相応しい技でしょう。……『雷生炎花・百合車(ライショウエンカ・ユリグルマ)』!」
 裕樹の刀、『雷花』の力が解放され、雷光で形成された刀身が、氷で動きを止めた敵群を薙ぎ払う。
 ガーベラが咲かせた氷の薔薇と並ぶように、雷の刃が命中した箇所から花のような炎が生じていた。その形こそ、グロリオサ。百合車だ。
 『グロリアス』の効果が発生し、これがディアボロスたちの継戦能力を支えていた。
 戦端を開いた時点から、魔尋は風を味方につけている。『サキュバスミスト』、魅了の魔力を宿した桃色の風を敵に放ち続けていたのだ。
「イヒヒ、味方の援護中心で動いてきたからね。淫魔忍は、姿を見せずに謀略をはたすのさ!」
 上手い具合に、敵が順番に襲い掛かってきていたのも、精神を浸蝕するミストが撒かれていたからこそだった。
 ただ、それも戦場に拡散しきり、そろそろ限界に思える。魔尋としては、新たなディヴィジョンの情報を集めるべく、敵の姿や様子、攻撃を観察してきたが、すぐさま効力があるような発見とまではいかなかった。
 ジェネラル級『毘沙門天』も出現せずじまいである。
「じゃあ、そろそろ撤退しよう。置き土産に演技偽装。……わーん、劉備様ー!」
「お? 合図だな」
 アンゼリカは、蟲将へと化けた声で振り返った。
「出来るかぎり敵を倒したし、いいだろう。最後にめいっぱい力を込めた『神焔斬妖剣(シンエンザンヨウケン)』をお見舞いだ」
 大剣を構えると、おあつらえ向きにまた、掴みかかりにきたトループス級がいた。
「心の焔よ、燃え上がれーっ!」
 跳びつくようにして横凪に振るう。
 アンゼリカは、その『カバンダ』を焼き尽くすと、シルとともに『リグ・ヴェーダ』のある方角にむかって挑発する。脚は反対方向に駆けだしながら。
「さぁ、後は奪還戦だね!」
「そうそう、本番でお待ちしていますっ! ……って、修さん?!」
 自ら敵に囲ませながら闘い続ける修に対して、シルは『精霊砲』で援護砲撃をしつつ声掛けをした。
「無理せずに退くよー」
 包囲が解けると、次の敵を探して向かおうとしているし、無理どころか、修にはまだ余裕があるらしい。
 エトヴァは再度、戦況を見た。
「成果十分……か」
「ああ、頃合いだぜ」
 咲菜は全力を発揮できて満足そうだ。しかし、修も含めて全員が撤退に移行するころ、あらためて『蛇亀宇宙』の連中を眺めて呟いた。
「肉塊が神の名を冠するとは……本当に末だな。この世も、テメェらも……」

『チェインパラドクス』(C)大丁/トミーウォーカー

 

tw7.t-walker.jp