大丁の小噺

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全文公開『伊勢国防衛! 機馬斥候隊への攻撃』

伊勢国防衛! 機馬斥候隊への攻撃(作者 大丁)

 伊勢長島に大軍を集結させているジェネラル級天魔武者、『斎藤義龍』は不機嫌だった。
「遅い! 何をしておるのか! そのようなザマでは、『伊勢国』の制圧などできはせぬぞ」
 配下に怒鳴りつけている。
 右手の攻撃ユニットを伸ばしたり縮めたり、はたまた頭上で振り回して号令する。
「死ぬ気で動け。この戦は、時間との勝負なのだ。伊勢国を制圧すれば、斎藤義龍伊勢国の大名となる! だというのに、その軍勢が、この体たらくでは……天魔武者として情けなくは無いのか!」
 軍勢の端では、斎藤の姿を遠くにみて、斥候に出発する部隊があった。
 人馬型天魔武者のトループスたちである。
「やれやれ、命令には従うが、やる気はおきぬな」
「さよう、任務だけは遂行しておこう。遠ざかっておれば、斎藤様の耳でも我らの愚痴は聞けまいて」
「いかにも。フフ……」

ごきげんよう。《七曜の戦》が、遂に始まろうとしておりますわ。この戦いの帰趨によって、わたくしたちディアボロスの、引いては、最終人類史の運命が決まっていくでしょう」
 新宿駅グランドターミナル。
 プラットホームには、『天正大戦国』行きのパラドクストレインが到着し、車内では、時先案内人、ファビエヌ・ラボー(サキュバス人形遣い・g03369)が依頼の説明をはじめている。
 地図が掲出され、河口付近の輪中地帯と、砦の配置が示されていた。
「敵の大勢力と戦う、歴史の奪還戦の相談も既に始まっていますが、歴史の奪還戦だけが《七曜の戦》ではございません。最終人類史に奪還した地域や、或いは、ディアボロスが制圧したディヴィジョンの地域に向けた、敵の侵攻が予測されております。みなさまには、天正大戦国の伊勢国を制圧しようとするジェネラル級天魔武者『斎藤義龍』の軍勢を、《七曜の戦》の前に強襲して、その侵攻意図を挫いていただきます」
 差し棒を当てられた地域は木立が続く土地で、ここに斥候部隊がやってくるという。
「『機』械の騎『馬』故に機馬隊、ですわ。このトループス級天魔武者を本隊から離れているところで殲滅してくださいませ。彼らが情報を持ち帰れないことで、『斎藤義龍』の軍勢にわずかに混乱を起こせます」
 今回の伊勢国防衛作戦は、大軍を全滅させるものではない。
 混乱や妨害といった揺さぶりを積み重ねて、斎藤義龍に全面撤退を決断させればよいのだ。
「作戦に成功すれば、『伊勢国』を最終人類史へと奪還する事が出来ますわ」

 ファビエヌは、ディアボロスたちに検討をうながし、こんな言葉も付け加えた。
斎藤義龍は、伊勢国ディアボロスから奪い返せば、伊勢国の大名に取り立てられるという約束をしているようで、本人のやる気は非常に高いですわ。反して、配下の天魔武者達の士気は低く、斥候部隊がいなくなっても、ほかの配下からは『あの者たちは逃げた』くらいにしか思われません」
 ジェネラル級に連絡をとれないよう、機馬斥候隊をきっちり倒す。
 それが、勘どころのようだ。

 樹木は馬が通れるほどの間隔で立っていた。
 低木や茂みも点々としているから、場所によっては視界が悪く、この木立を直線で通り抜けられるようにはなっていない。
 機馬斥候隊が侵入してくるまで、エルフリーデ・ツファール(紫煙の魔術師・g00713)は幹のひとつにもたれかかって、煙草を吸う。嗜好品にみえるが、魔術の媒介の為のもので、喫煙そのものは常に行っていた。
「掃討戦つーか、殲滅戦か」
「はい。斥候は……本隊には戻らせません……!」
 小さな声で応えたのは、絵島・玲於奈(ジーニアスボーイ・g09401)だ。弱冠9歳の少年なれども、決意はしっかりしている。
「そうそう、斥候隊の殲滅ね。私自身は正面からは戦わずに策略で撃退してみせるわ」
 真秀場・静菜(サキュバスリアライズペインター・g01823)は、色仕掛けらしき仕草をしようとして、なんだか上手くいってない。シズ・ノウラ(深森の幻獣・g10049)は、悪戯っぽく言った。
「私も物陰に隠れておいて、みんなと合わせて奇襲を仕掛けるニャ」
 ウェアキャットらしく、爪を研ぐようなマネをする。
「戦争はもう始まってるのに、やる気のない兵士なんてのもいるのニャ。迂闊だけど、こっちとしては狙い所ニャ。景気付けに叩きのめすニャ」
「やる気は起きないけど任務はこなすと。不真面目なのが出て来てる中でも真面目な部隊だなー」
 無双馬『クロフサ』をなでながら、無堂・理央(現代の騎兵?娘・g00846)。
 いっぽうで、ウィリディス・ファラエナ(毒虫・g08713)は、何かを思い出すかのように、頭巾の奥からくぐもった声をだした。
「上が必死でも下は嫌々ってのはよくある事だし、任務に出たついでに逃げ出すってのも珍しくはない」
 が、ディアボロスの面々から、ヘンに注目をあびた。
 確かに、そのままでは敵に対してフォローしたみたいだ。
「今回は相手が悪かったな。一人残らずあの世行きだ」
 同意をしているんだと示すかのようにウィリディスは、シズのほうをむいて付け加えた。すぐあとで、敵がエリアに入ったむねを、先行した者から知らされて、それぞれの持ち場へと散る。
 トループス級天魔武者は、雑な隊列で木立を進んできた。
(「もうチョイ、先ニャ」) 
 茂みからのぞいている、シズ。
 罠はすでに仕掛けていた。『斬糸結界』で生み出した切断糸を樹々のあいだに張り巡らせている。目論見どおりに、機馬隊の先頭が引っかかった。
「て、敵だ……グハァッ!」
 慌てた一体は歩を速めたので、馬との境目あたり、胴体に切断糸を食い込ませた。
(「しめしめ……フニャッ?!」)
 罠地帯から敵を逃がさないように位置取りしていたシズは、逆に隠れ場所を見つけられてしまった。
 機馬隊が標準装備しているらしい、『腕部内臓式ビーム発振器』。数機がそれの狙いを茂みのひとつにつけている。
「シズ殿、それがしに任せよ!」
 戦国武将が割って入った。先行していた伊藤・真九郎(戦国武将・g08505)である。機馬隊はすぐさま腕の向きを変える。
 姿をあらわしたほうの標的に。
「デ、ディアボロスなのか?!」
「偵察には来たが、まさかこんな近くに入り込んで……?」
「うわ、糸のほかにも地面がッ!」
「かかりおったな。『王佐土砂計』をくらえ」
 真九郎は、『泥濘の地』で馬脚を足止めしておいてから、土石流を流し込んだ。数機は埋もれていったが、ほとんどの人馬は不整地を乗り越える。
「戦略的撤退だー!」
 指揮者でもないだろうが、機馬の一体が叫ぶと、全機がきびすを返した。
「上手くいったニャ」
 シズは茂みから顔を出す。
「ああ、逃がしはせぬよ……。ぬぅ?」
 応えている間に、真九郎めがけて、ビームが飛ぶ。
 機馬隊が走りながら、後ろにむけて撃って来たのだ。すかさずシズが、マジックシールドを展開し、真九郎もビームの軌道を見切って回避に努めた。
 ふたりは、糸と土石流とで、敵軍の動きを操作している。
 斥候がむかった先には、仲間による罠がまだまだ仕掛けられているはずだ。
「四つ足で一直線に逃げられては流石に追うのも骨が折れるんでね」
 ウィリディスが用意していたのも『斬糸結界』だ。特に、蜘蛛の糸を素材に自分で作った糸の暗器『絡新婦』を用いてある。これも、最初の一体は引っかかって転倒したが、すでに敵対存在を認識していた天魔武者らは、片腕をふりまわして木立のなかへとビームを放ってきた。
 そして、色気とは関係なく、静菜が『王佐土砂計』を準備している。
「機動力は侮れないけれど行動は読みやすいわね」
 自軍の方角で、開けている場所があれば、そこを目指している感じだ。
 ただし、ビーム発振器は、油断できなかった。
 あえてウィリディスは姿をあらわし、毒使いらしく禍々しい色の気体を、景気よくあたりに撒き散らした。
 視界も悪くなれば、機馬隊は射撃のために長くとどまることなどできない。
「ここまでやったら罠にも気を回せんだろうさ」
 『絡新婦』にまた、数機がかかっていく。
 タイミングを合わせて、静菜の土石流も入りこんできて、やつらを押し流した。
 また逃げ出すかとも思ったが、同じ手を二度くらったトループスは、戦法をかえた。ディアボロスたちが罠を張っていたように、自分たちも潜伏して奇襲をかけるつもりだ。
 ウィリディスと静菜、そして玲於奈は狙われる立場である。
 3人の周囲で、ビーム発振器のチャージ音が小さく鳴っている。
「隠れても……無駄です……」
 玲於奈はつぶやくと、コウモリのような羽ばたきかたをする、『デモニックボム』を放った。
 入れ替わりに、ビームの斉射が、静菜と玲於奈を捉える。
 しばし、熱線に焦がされるのに耐える時間が過ぎ、悪魔爆弾の爆発音につづいて、チャージ音はやんだ。玲於奈があらために行くと、数体の武者が茂みのなかで動かなくなっていた。
「確認できたのは……全ての斥候ではありません……」
 爆発と糸、毒と土石流を逃れた者がいるのだ。まだ、撤収はできない。
「次の策を仕掛けにいくわね」
 静菜はすぐに、斥候隊の生き残りを追う。
「逃げ切らせないよう……」
 玲於奈も敵の殲滅を目指して動き、ウィリディスも頭巾の中で頷いた。
 まず、エルフリーデが敵の残りを見つける。
 と、機馬隊もすぐに方向を変える。
「抵抗はしてくるだろうが、意識は情報を持ち帰るための逃走に向いているはず……」
 咥え煙草で馬の尻を眺めていると、やはり後方、エルフリーデにむけて射撃してくる。一息、煙をくゆらせると、強化した炎を纏ってビームの威力を減衰した。
「撃ち零しをちまちま潰すのは他の奴らに任せて、火力任せに撃ち込むかねェ」
 一点突破収束魔力砲撃を構える。
 そのわきに、無双馬『クロフサ』に跨った理央が来た。
「うん、いいね。そのチマチマは、ボクが引き受けたよ」
 『復讐の刃』で武器を生成した。
 自動小銃を二丁にし、竜騎兵スタイルだ。機馬隊は、ビーム攻撃をけん制に使ってきたが、接近された時のために『ビームナギナタ』も装備している。
 エルフリーデの『Morgenschein ist golden(モルゲンシュテルンイストゴルデン)』も、チャージが速まってきた。
 高速詠唱を使っている。
「背を向けて逃げる相手を撃つなんて、とか甘い考えは無いんでな。死ぬ気で逃げりゃあいいさ。でないと残すのが情報じゃなくて灰だけになっちまうぜ?」
 見える範囲で、敵の多そうなところへと炎の収束をむけた。
「眩く輝く朝焼けのように――黄金色に染め上げろ!」
 射ち出された炎は、燃やすだけでなく、斥候部隊を吹き飛ばした。
 直撃でなくとも、余波や爆風がトループス級を巻き込み、樹木のあいだへと打ち倒す。一応、リチャージもはじめるが、果たして次は必要だろうか。
 生き残った数機をめがけて、理央がクロフサを走らせたからだ。
 罠を仕掛けていた仲間も合流し、もらさず追撃する。
 やがて、クロフサは人馬型の天魔武者と並走するようになる。ビームナギナタが振るわれたが、理央が銃身でがっちりと受け止めた。そのまま二丁は左右にむけられて、引き金が絞られる。
「銃弾の雨をご馳走してあげるよ!」
 馬でいう、脇腹に細かな穴をあけると、右にいた一体は、そこから黒い煙を吹き、左のヤツは発火した。
 その順番で速度が落ちて、やがてくずおれる。
 木立はまだまだ続いていた。これで、斥候が本体に戻ることはない。
「ふぅー!」
 理央は息をついて、銃口から上る煙を散らせる。
 仲間がすでに、別の一体にトドメを刺したのを確認していた。真九郎は、そうした残骸に。
「将の命に不服を覚える事もあろうが、気迫持たず戦場に出て命落とすは自身であろうに。その不心得、突かせて貰った」
 果たして、『七曜の戦』に参じる敵はいかようか。
 ディアボロスたちは、伊勢長島から脱出する。

『チェインパラドクス』(C)大丁/トミーウォーカー

 

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