大丁の小噺

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『【機械化ドイツ帝国奪還戦】淫魔軍所属フランク兵』全文掲載

【機械化ドイツ帝国奪還戦】淫魔軍所属フランク兵(作者 大丁)

 鍵盤の上を軽やかにながれる指。
 そして、荘厳なる音色を響かせるパイプオルガンの調べ。
 『堕淫の宮廷楽長サリエリ』の演奏は、しかし淫魔の剣舞団からの伝令に割り込まれた。
ロンメル軍から砲撃が!」
 ここは戦場。サリエリは音とたわむれ続ける。
「あら、早かったわね。もう少し焦らしてくると思ったのだけれど……。いいわ、予定通り前衛部隊で迎撃しなさい」
 黒い指が、端から端まで、撫でていく。
ロンメルさんが言っていた『ディアボロス』は気にかかるわねぇ。断頭革命グランダルメに現れたディアボロスと同一であるか否か。もし、複数のディヴィジョンを行き来できるのであれば……、うちの陛下への良い土産話になりそうね」

「機械化ドイツ帝国の断片の王であった『ヴィルヘルム2世』を撃破したことで、ドイツを中心としたヨーロッパ地域を最終人類史に奪還する『機械化ドイツ帝国奪還戦』が実行可能となりましたわ」
 ファビエヌ・ラボー(サキュバス人形遣い・g03369)も、ちょっとだけ緊張の色を見せていた。
 情報項目が多いからと、人形のおチビさんたち、ジョスとジュリも使って案内している。
「この戦いに勝利することが出来れば、ドイツを中心とした欧州の広い範囲を奪還できます。戦場には、機械化ドイツ帝国のジェネラル級ゾルダートに加え、吸血ロマノフ王朝、幻想竜域キングアーサー、断頭革命グランダルメの軍勢も現れています」
 ディアボロスに公開されている戦場マップの両端を、ぬいぐるみたちが掴んで掲げていた。
「これらの軍勢に対して戦争直前に攻撃を仕掛けて戦力を削ることが出来れば、戦争の機先を制することが可能となるでしょう」
 差し棒の代わりに、ナイフが軍勢の位置をつついている。
「敵は大戦力であるため、引き際を間違えず、充分な打撃を与えたらすぐに撤退する事が重要になります。お気をつけて」

 ファーストアタック行きの列車が出発する。
「戦争の最終目標は、『空中要塞ビスマルク』の撃破ですけれども、クロノヴェーダに大地を強奪されることを防ぎつつ、できるだけ多くのジェネラル級に止めを刺したいですわ。……イイコトよね♪」
 人形遣いは、ディアボロスたちを見送った。

 敵影を探していた音羽・華楠(赫雷の妹狐・g02883)は狙い通り、森のあいだを行軍する一団を捉えた。
 地図の読みに自信があったので、仲間にもその目星を伝えてある。
「みなさんとはすぐに合流できるでしょうね。さて……」
 そのディアボロスの面々は、敵の姿が明らかになるにつれ、言葉を失っていった。
 例えばベアストリア・ヴァイゼンホルン(ジャンカー系眼鏡女子・g04239)だ。フライトドローンに乗って、東欧方面の丘陵地帯を地形に沿って飛んでいたのだが。
「とりあえず見たくは無いけど、見なければ戦場の情報収集も出来ないから、見るけど……」
 ぶっといキノコの兵士は、ご丁寧にモザイクがかかっている。
「……うん。頑張ろう」
「こっち、こっち、です」
 華楠が手を振っている。
「敵は大軍である以上、どうしてもジェネラル級サリエリの指揮が行き届かない個体や小隊が出てくると推測します。そこを狙って襲撃を仕掛けましょう」
 提案に頷く、ベアストリア。
「ふたつの丘に挟まれた渓谷があったよ。あの……アレらを誘い込めれば、華楠さんの言うように指揮から分断できそうよね」
 無表情なまま喋るのは、嫌悪感のせいではなく、もともとだ。
「アレはアウトでしょ!」
 牧島・星奈(星光閃姫☆キラメスター・g05403)は、枝の陰からつつくように、モザイク頭を指さす。
「いくらサリエリ配下だからって、あんな事やこんな事されるなんて絶対やだから、狭い地形に囲って密集してるとこを一斉攻撃ってのに、あたしも賛成♪」
 そう、まくしたてると、周囲の木々に視線を移した。
「あ、いい子見っけ。ツバメかな」
 星奈は、『使い魔使役』で、枝に止まっていた鳥をメンバーに加える。
 作戦の伝令だ。
 持たせる指示書を華楠がしたためているあいだに、ベアストリアはドローンで静かに離陸する。
 逆叉・オルカ(オルキヌスの語り部・g00294)は、ツバメの連絡を受け取ると、誘導役をかってでた。
「ロシアはともかく。まさかフランスまで出てくるとはな。まぁいい、どんな敵がこようとドイツの地を譲りはしないさ」
 目下の相手は、渓谷手前の別れ道に差し掛かっている。
 その様を、遠距離から『ガジェットライフル』のスコープに捉えていた。
「……しかし、クロノヴェーダ間で勧誘や寝返りがあるとは聞いていたが……。あいつに勧誘されたくはないだろうな。流石にドイツ残党も」
 キノコ頭がモザイクの後ろで白っぽいナニかを、先走りぎみに噴いている。その下の裸の上半身は筋骨隆々としていて、太い腕が長柄の武器をガッシリと握っていた。
「人選ミスとは思わないのだろうか……」
 オルカも言葉を失って、いったんスコープから顔を上げる。
 勧誘に対して機械化ドイツ帝国ロンメルは、『戦いぶりが信頼に値するならば』と返したらしい。
 件の前衛部隊のフランク兵は、森を出る側の道に進路をとった。
「俺が先に試してやろう……凍てつけ!」
 狙い、発砲した。
 『神を貫く氷の弾丸(フロスト・インパクト)』は、敵隊列の側方から襲う。
 銃声に柳谷・凪(お気楽極楽あーぱー娘・g00667)が起き上がって、ようやく出番とばかりにすっとんでいった。
 話を聞いても勢力図がどうとか、よくわからない。
 それよりも、ダンスでフランクたちを誘惑し、味方が待ち構えている場所まで連れていくお仕事のほうが、面白そうだ。
「う~みゅ、いつ見ても薄気味悪いキノコなんだよ」
 近くまで寄ったらば、敵は胞子から増殖しているところだった。
 先ほど分かれ道を進んだフランクは、冷気の銃撃を受けてひっくりかえり、蛇のような下半身をのたくらせている。
 増殖組は、弾の飛んできたほう、すなわち凪の走ってきた道に進路を変えて、攻勢に出るつもりのようだ。
「ボクの舞に見惚れるんだよ!」
 あえて、キノコ頭たちの前に姿をさらし、凪は『必勝祈願奉納艶舞』。
 神への生命賛歌に由来するらしいが、その割に煽情的で妖艶だ。
 フランクたちは、首というか茎を固く反り返らせ、ドクドク増殖した。
「踊り子さんへのお触りは禁物なんだよ」
 集団で武器を差し向けてくる敵を、ヒラヒラと舞い踊りながら回避し、後退する。
 すなわち、ベアストリアたちが見立てた渓谷に向かってだ。やがて、エルマー・クライネルト(価値の残滓・g00074)の姿が、道の先に見えた。
 左右から斜面が挟む地形、聞いてたとおりだ。クリーガ・エッシェルング(無貌の火葬兵・g06836)も、筒状の装置を両手に構えている。
 『艶舞』が速度をあげて、2人のもとに達すると、増え続けるトループス級も追って走りだす。
 迎えるエルマーの戦意は高い。
「ドイツ軍から奪い取った我等の成果を掠め取ろうとは良い度胸だ。返り討ちに……」
 だが、駆けてくる勢いに、キノコ頭をプルプルとぶつかり合わせている奴らを二度見する。
「……」
「変なキノコだ」
 クリーガだって、ヘルメットで見えないものの飽きれているのではないか。エルマーは、チラと横目をし、しゃがんで呼吸を整える凪を振り返り、オラトリオの『フルーフ』に視線を移した。
「……とにかく酷すぎる絵面をどうにかしなければ」
 主人の命で『Frederica(イワイサク)』が発動する。
 チトニアの花に、クリーガたちの精神はガードアップされるであろう。
「ああ。灰も残らないように燃やそう」
 元素炎放射器は、筒先から『強火(ツヨビ)』を噴射した。
「突撃してくるなら都合がいい……」
 キノコの金切り声は炎の音にかき消され、それでも筋肉を頼りに距離を詰めてくる。
 装置の元素タンク残量を測り、クリーガは引き際を判断した。
「時間稼ぎにはなったか、な……」
 敵の群れを燃やしながら、仲間を背後にかばい、少しずつ後退する。
 次のポイントにいるのは陣・頼人(武装騎士ヴィクトレオン・g00838)だ。
 やはり、フランク兵は渓谷の深いところまで誘いこまれてきた。
「さすがに、宮廷楽長の戦力を相手に全滅させようなんて、楽天的にはなれないからな」
 分断作戦の要となるのが、頼人だった。
 モザイク付きは、長柄の武器をマイクに変える。エルマーは響く歌声、『陶酔のカンタービレ』に。
「あ、やっぱり淫魔なんだ」
 と、妙な感心をしつつ、クリーガがより燃やしやすいように、チトニアの花をキノコの胸筋にも咲かせた。
 そして、凪の衣装の襟首を引っ掴むと、飛来したドローンに放り投げる
「うみゅ。これは楽チン。元気にゴーなのだ~♪」
「頼人君、存分にやりたまえ」
「ありがとう、ドンピシャだ!」
 誘導役が上に逃れたところで、フランク兵たちの長い下半身が、いっせいに地面へと沈みこんだ。
 山道がすり鉢状にへこみ、一団の重みで限度を越えると底が抜ける。
 落とし穴だ。
「屠竜撃ぃ!!」
 武装騎士ヴィクトレオンの得意技だ。ディアボロスたちの連携で、規模もでかくなっている。
 身を隠していた仲間も顔を出し、空からはベアストリアに華楠、星奈。加えてオルカも、ドローンに拾ってもらって到着した。
 穴のフチからフチへと、頼人は飛び移りながら竜骸剣を振るっている。蛇半身がこんがらがって動けない敵は一体ずつ、仕留められていくのだった。
 奴らマイクは手放さない。『陶酔のカンタービレ』は穴からも響き、人を操る胞子を立ち昇らせてくる。
 寄生されないよう岩で遮蔽をとる、真秀場・静菜(サキュバスリアライズペインター・g01823)。
「恐ろしく不気味な形態ね。……あんなものを戦争で相手にしたくないわ」
 ちょっと覗いて、頼人たちの立ち位置を確認する。
 神算軍師は、脅威を感じつつも落ち着きはらい、青龍水計を放った。歌声も胞子ごと洗うがごとく。
 流水はドウと穴に注ぎ込まれる。
 手ごたえはあったが、敵を一度に溺れさせるほどではない。穴掘りを頑張りすぎたか。
 まだ陶酔を誘うものが聞こえてくる。
「酷い姿に歌声ね……まともに見ていられない」
「何このクロノヴェーダ……気持ち悪ーい!」
 ハニエル・フェニックス(第七の天使・g00897)も口を尖らせている。
「こーゆーのはハニィちゃん、ノーサンキューです!」
 小岩の上に登ると、天使の翼を羽ばたかせて、風を巻き起こした。
「胞子に寄生されるとかちょー気持ち悪い。こっちも風使いの力を使って散らしてやるもんね!」
 『エンジェリック・スプレンダー』は、浄化のオーラを羽にのせて、いっしょに飛ばす。
 キノコ胞子の邪悪さを削ぐように。
 風が効くなら、とりあえず凍えさえてもみようか。ネリリ・ラヴラン(★クソザコちゃーむ★・g04086)は、吹雪を起こす。
 静菜といっしょにサキュバスどうし、地形に隠れて『潰えし願い(ブレイン・フリーズ)』を高速詠唱した。
「あれも淫魔さん、なの……?」
 親戚くらいの位置なんだろうけど一緒にしてほしくない、と過敏になる。
「ネリリちゃんは、どんな顔して戦えば良いのか、解らなくなってるよ。でも、あれは早めに歴史から消さなくちゃいけないって、サキュバスの血が叫んでるわ……」
 あまりの独白に精神寄生を疑って、彼女の赤い瞳を覗き込む静菜だった。ルーシド・アスィーム(ナジュムの導標・g01854)も、ランプから呼び出したジン、『サディーク』の反応をみるにつけ、ネリリにも同情する。
「……え、あの淫魔、何か気が進まない、と。いや、うん、分からなくはないですけどね……」
 水計、風属性、吹雪ときて、砂を加える。
 『セトの粛嵐(サジン)』の詠唱も、岩陰から。もちろん、自然に都合よく、隠れ場所があったわけではない。作戦の概要をツバメの伝令から受け取って、拠点構築を用いた。
「過信は禁物ですけどね。サディーク、君にも期待してますよ!」
 双剣『星刻のケペシュ』を放ってやる。
 受け取ったジンはそれを携えて、魔の淵へと命を狩りに疾駆した。
 絶対アウトと言っていた星奈が、胞子にやられて穴に落ちる寸前に間に合う。
「イケメン、来た。あんな事していーよー☆」
 ヒロイン衣装がはだけそうなのを、これも寸前にネリリが大声で制止する。
「星奈ちゃーん、ほら、いっしょに淫魔を凍らせるわよぉー!」
「そうだった。まとめて、アイスエイジブリザードでやっつけちゃうんだから!」
「どうやら、フランクなるトループス級の胞子も、遮断したほうが有利に戦えそうですね」
 華楠はドローンから身を乗り出し、『攻性式神結界』を張る。
 閉じ込めた群れに式神を放った。ベアストリアも、スカートをひらつかせて、『高機動型誘導反応弾【Sturmvogel】(シュトゥルムフォーゲル)』をその中に発射する。
 下から見られても、なぜかスカートは覗かれない。
サリエリ本隊との連絡遮断は上手くいってると思うよ」
 穴に落ちている以外に、敵影はなし。
 待ち伏せ隊の静菜たちも、防御陣地から出てトドメを刺しにいった。
 結界から脱出しようと、這い上がってくるキノコ頭には、軍用シャベルでブン殴るクリーガと、蹴り落とすオルカ。
「こっち来るんじゃねぇ、ライフル汚れんだろ!」
「もうひといきだ。がんばって!」
 頼人の竜骸剣が、また一体を屠った。竜とは比較にならない賊だが。ルーシドも、サディークと並んで風刃を使う。
「ええ、頑張りましょう。ドイツ奪還戦もいよいよ佳境ですから」
 はたして、東欧方面におけるロンメルサリエリの力比べは、ディアボロスたちの活躍で、どう変化したか。
 ハニエルは、オーラの羽をもうひと吹きした。
「とっととやっつけてやるんだから!」
 前哨戦はこれで終わり。
 メンバーの多くが絶句したモザイクの中身は、天使の羽に浄化され、胞子とは違った光の粒子になって消えた。
 空っぽの窪みに溜まった水を一瞥し、復讐者たちはグランドターミナルへと帰投する。
 ディアボロス・ウォー、本戦では新宿島の全員で攻め込むと、誰もが胸に秘めて。

『チェインパラドクス』(C)大丁/トミーウォーカー

 

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