大丁の小噺

大丁です。読み方はタイテイが標準です。※大丁は、株式会社トミーウォーカーのPBWでマスター業務を行っています。ここで関連する告知を行うことはありますが、マスター契約時の規約により、ゲームに関するお問い合わせは受け付けられません。ご了承ください。

全文公開『悪魔少女の拠点防衛』

悪魔少女の拠点防衛(作者 大丁)

 メイド服の竜鱗兵にして、ジェネラル級。
 ミセス・モーガンマン島拠点の整備に忙しかった。
「あの方々は、グィネヴィア様のお客様です。粗相があってはなりません」
 防衛の指揮だけではない。竜鱗兵をたくさん使い、メイド長さながらに、お迎えの支度を割り当てている。
 配下の一体が、報告に戻ってきた。
「……様から、狙撃のための遮蔽物は立派とお褒めを頂きましたが、空中からの攻撃に移れるよう、設備はシンプルがいい、とも仰られました」
「ああ、ああ、そうですわね。あちらからいらした方には、装飾が荘厳すぎたかもしれませんわ。すぐに手直しして!」
 ジェネラル級竜鱗兵は、担当の人選まで、ちゃんと指示を出す。
 『お客様』には、それぞれの好みがあって、応えていくのが務めだ。

 やや駆け足で、ファビエヌ・ラボー(サキュバス人形遣い・g03369)がパラドクストレインの車内に乗り込んできた。
ごきげんよう。攻略旅団の提案により、グィネヴィア王妃に従うジェネラル級アークデーモンの所在地を調べ、各個撃破を行なうこととなりましたわ」
 華奢な十指がものすごい速さで動き、ぬいぐるみたちが地図や資料を展開する。
「王妃竜グィネヴィアは、もともと南部を拠点としていたようで、『七曜の戦』により、その支配地域の殆どを失っているらしいのです。そのため、拠点を構え直せる場所も少なく、ジェネラル級の一部は、『七曜の戦』でアイルランド侵攻軍の拠点となっていたマン島に構えているようですわ」
 敵布陣の予想図によれば、全てのジェネラル級アークデーモンが揃っているわけではなかったが、各個撃破という作戦を考えれば、充分に思える。
 依頼参加のディアボロスたちは頷いた。
「皆様には、『七曜の戦』に引き続き、マン島を強襲し、可能な限り、ジェネラル級アークデーモンの戦力を削っていただきます」

 前回の強襲に勝利した事もあり、島の外縁部まではパラドクストレインで移動する事が可能になっている。その後、島内の敵拠点に対して攻撃を仕掛ける作戦だ。
「ただし……」
 ファビエヌは、人形操りの手を止めて、人差し指を立てた。
マン島のジェネラル級アークデーモン達は、マン島ディアボロスが攻め寄せた場合は、撤退をするように、王妃竜グィネヴィアより指示されているようですわ。彼らが撤退する前に決戦を挑むには、敵に時間を与えないように、一気呵成に攻め込む必要がございます。皆様には、正面から敵に戦いを挑んで迎撃に出て来る敵兵の撃破を行っていただきます」
 人差し指は、トループス級アークデーモン『デーモンギャル』の画像を示した。
「わたくしが、『TOKYOエゼキエル戦争』のころに数回担当した敵ですわ。城門のひとつに構え、上部の胸壁から投射、遠隔攻撃を、門を開いて突撃を行なってきます。アヴァタール級『堕落への誘い』メフィストフェレスに指揮されていますが、おおよそ勝手な判断で戦っていますので、挑発には弱いはずです」
 多くのトループス級を撃破すれば、撤退しようとするジェネラル級に隙が出来る。
「そこを突いて精鋭のディアボロス部隊を編成し、決戦を挑めますわ。もちろん、強襲作戦完了のため、メフィストフェレスの撃破もお願いいたします」

 時先案内は、情勢の話に戻った。
「現在、キャメロット突入作戦が行われ、幻想竜域キングアーサーに対して、ディアボロス・ウォーを挑むのも時間の問題と思われます。このタイミングで、アーサー王に次ぐ権威を持つだろう、王妃竜グィネヴィアの手駒を削ることが出来れば、ディアボロス・ウォーを有利に導くことが出来るかもしれません。ですが、幻想竜域キングアーサーの主戦場はキャメロットアーサー王にあると思われます。ぜひ、イイ感じに、バランスを見ながら攻略を行ってくださいませ」
 ファビエヌはプラットホームに降り、列車の出発を見送った。

 とにかくやかましい戦場だった。
 城門の上からはデーモンギャルたちが喚き散らしてくるし、彼女らの後ろで指揮しているはずのメフィストフェレスの号令まで漏れてくる。
 両軍は互いにけん制しあっていて、ハズれた攻撃のさく裂が方々で響いた。
 そして、ディアボロスの面々も、大声を出し合っている。
 やかましくて、聞こえにくいから。
 ゴスロリ服の男の娘、ロキシア・グロスビーク(啄む嘴・g07258)は、騒音にさえ負けたくない。
「あのメイドさんも酔狂だね! アークデーモンを使うったって、変なのまで戦力にするだなんて」
「んーむ、ロキシアの言うとーり、随分と場違いな格好じゃのう……」
 マユラ・テイル(みすてりあすじゃ・g05505)は、赤い瞳をこらし、より眼光を鋭くした。
「もうちと、てぃーぴーおーを弁えた格好をしたらどうじゃ? いやまあ、服装なんぞ個人の自由と言われればそれまでじゃがの」
「黒ギャル……。絶滅していなかったのね!」
 もっともらしい顔で頷く、牧島・星奈(星光閃姫☆キラメスター・g05403)。抱えた長柄武器には痛そうな刃がついているが、キラキラした華美な装飾もなされている。
アークデーモンだから遠慮なくやっつけられるけど、さっさと片付けて、ジェネラル級もやっつけちゃお!」
「うん。ここの城門を陥落させられれば、撤退を阻止できるって事だからね。逃がさないよ!」
 陣・頼人(武装騎士ヴィクトレオン・g00838)は、アームドフォートから牽制の誘導弾を発射していた。アンゼリカ・レンブラント(光彩誓騎・g02672)も光の剣から閃光を発し、アークデーモンたちに目くらましを仕掛けている。
「頑張っただけ奪還戦で有利になるものね。さぁ作戦を成功させて、ジェネラル級を沢山倒していこうっ!」
「強襲任務、承った。迅速に攻め入り、間も与えず、来るべき戦の為、可能な限りのジェネラルを討ち倒してみせよう!」
 妖精騎士のラシュレイ・ローレン(人間の妖精騎士・g04074)にとって、誓いは重要だ。
 言ってる内容に重複があるのも、よく聞こえていないからである。
 みんなが叫んでいる横で、月鏡・サヨコ(水面に揺らぐ月影・g09883)はなにごとか呼び掛けているが、声が小さくて伝わりにくい。
 どうやら、パラドクス通信があるから、ふつうにしゃべればいいと指摘しているらしい。
 アドル・ユグドラシア(我道の求道者・g08396)は落ち着いた雰囲気で呟いた。
「引き際を見極めているという訳でもないようだが、実のところ撤退の手筈を整えた相手を追うのは難儀だ」
「やはり相手も戦い時を心得ている……か。流石に、アークデーモンのジェネラル級を逃がしてくるわけだな」
 ラキア・ムーン(月夜の残滓・g00195)は、アドルの言葉をちゃんと聞き取って返した。
 彼も話を続ける。
「もちろん、折角の機会を逃すつもりはない。ここは速攻を決め、準備などさせん」
「ああ。奴らの撤退速度より此方の攻勢が早ければそれで良い話だ。1体でも多く、引きずり出してやろう」
 そう言って、ラキアは突撃槍を構えた。
 拠点防衛に対して、攻める側は不利なのだが、いつまでも睨み合い、怒鳴り合いをしていても進展はない。
「さてと、時間は有限だ。限られた時間で出来る限りの戦果を得る。……言うだけなら簡単だ。けどまあ、出来ない事もないかな。いっちょ頑張りますか!」
 秋風・稲穂(剣鬼・g05426)が、二振りの刀を携えて門のほうへ向かう。
 しゃべっていたロキシアがそれに気付いた。
「投射……化粧品やシールでも飛ばすのかな? あ、稲穂さんが行く。考えててもしょうがない、僕もいこいこ」
 軽く打ち合わせをし、ロキシアが挑発して、稲穂が接近することとなった。
「挑発ね。あんまり意識して言うのはやったことないけど……うーわ。メイク厚すぎ! 未開の地の部族か何か?」
 さらに大きな声を出した。
「原始人のクロノヴェーダとか初めて見たんだけど。こっち来てもっとよく見せてよ。撮影してSNSに上げたいからさ!」
 本当にスマホを構えてみせる。
 もう片方の手に、巻物型デバイスギャラクティカ占事略決』をビッと広げた。
 胸壁のデーモンギャルたちは、身を乗りだして野次っている。彼女らもスマホを持った手を伸ばし、ゴスロリ衣装のロキシアを撮影しているらしい。
「いや、僕はそんな化粧しなくて十分だから。大いに結構!」
「上の敵も厄介だね……うーんどうしようか」
 稲穂は二刀、『Burn the dark』と『L・デルフェス』を抜いて戦闘態勢に入る。ロキシアの様子をもう少しだけみた。
 彼女のパラドクス、『イグジストハッキング』は敵の存在を歪めるほどの技術だ。
「情報の書き換えっても出来ること多いからなー……よし! すっぴんにしてやろ、うひひ」
 巻物の画面に対象の集団を写し、スマホを操作する。
 黒ギャルの顔面を中心にハッキングを行なった。困惑の悲鳴が、ロキシアの耳にも届く。
「よーし、よし、……ん? おわー! 激萎え!! ありえないんですけど!」
 勝ちを誇っていたら、操作中の画面のなかで、ロキシア自身がめちゃくちゃ批判されて、炎上していた。
「まぢ無理。おのれー。同士討ちすら起こしかねないレベルのメイク落としをしてやりましょ!」
 わけわからん罵声のなかに、『アリエナーイ!』が混じってくる。
 より、スマホのレンズを向けようとするので、せっかくの防御陣地からも半身がはみ出していた。
「ま、多少は脳筋気味に行ってみようか」
 稲穂は、城門近くまで一気に駆け寄り、跳躍する。
 そのまま飛翔し、胸壁の辺りまで高度を上げての強襲を行なった。
 拠点攻略で飛び回るのは危険が伴うが、相手の隙をつき、限定的なら使いどころはある。
「稲妻よ、敵を焼け! 『雷鳴閃波(ライメイセンハ)』!」
 二刀に込めた稲妻を薙ぎ払いで飛ばし、胸壁付近に居るギャルに当てる。
「アリエナーイ!」
「チョベリバ!」
 撃破したデーモンは、ギャルメイクではなかった。ハッキングを受けた個体だろう。相打ち状態で、ロキシアは。
「ちょーつらたんー。誰か慰めて……」
 炎上から物理的な爆破炎上にあっている。
 彼のおかげもあって、強襲に成功した稲穂は、即座に降下し離脱していた。
 敵を誘い出すコツも判ったので、降りがてら挑発の言葉も投げかける。
「今どきそんなケバケバしいメイクや衣装、流行って無いよ? 自分を貫いてると言えば聞こえは良いけど、それを見させられる周囲の迷惑考えた事無いの? やっぱり禄でも無いね、アークデーモンなんて奴は。それに今は、落ち着いた感じが受けが良いんだよ。私みたいにね」
「『ぎゃ|レ〆レ)〈』!」
 逆上したトループス級は、本当に化粧品を投げてきた。
 被弾した稲穂は、自分では見えないけどもメイクを施されてしまう。
「……ギャルメイクされるのはキツいけど、まあ我慢するしかない。例えどんな格好だろうとも、剣を振るうのに問題は無いしね」
 地上に降りると、次の攻撃にそなえて二刀を構え直す。
 ロキシアと稲穂の連携で突破口はできた。赤い瞳が、確信の光を灯す。
「篭城で時間稼ぎされるのは厄介じゃしのう……。ふたりに倣って、正面からちと煽ってやるか」
 マユラが提案すると、数人のディアボロスが同意した。
 城門の上まで届くよう、声を掛ける。
「東京を追われ、こんな所にまで落ち延びたぎゃるよ」
 まずは、マユラからだ。
「そんな所で引き籠もっててええのか? 主等が引き籠もってる間にもとれんどは移り変わっておるぞ? ああなるほど、じゃからそんな不格好な姿なのか。これはすまんかったのう」
「ふん、こんな所に随分と場違いな悪魔が居たものだ」
 叫ばなくても、ラキアの声はよく通る。
「東京から落ち延び、客分であるにも関わらず在り方は変えぬか。少しは慎みと言うものを覚えたらどうだ? ま、所詮は敗残兵。雑魚の集まりだな。正面からは敵わないとみて、城門に隠れる程度なのだから」
 城門の上で、騒ぎが膨らむ。
 サヨコは、通信機から顔をあげた。
 敵を引きずりだすための挑発は、直接呼びかけねば効果は薄そうだ。思いつくのは、今も昔も若者は上の世代から聞かされる小言が嫌いということ。
「ヤ・ウマトも年代で言えば昭和、連中からすれば祖母の世代。……ひとつ、試してみよう」
 がんばって、声を張った。
「全く、最近の若者はけしからん! 親からもらった身体に妙な色を付けるし、着こなしも全くなっていない。そんなことをしてるから根性が腐って、生まれたディヴィジョン一つも護れない軟弱者になるんだ。……文句があるなら、目の前で言ってみろ!」
 小言が終わると、むしろ城門の上の騒ぎは小さくなった。
 おや、とサヨコも仲間たちも耳をすませた。代わって聞こえてきたのは、門が開く音と大量の靴音。
 ぶかぶかの靴下に革靴が、全力で走ってくる。
 胸壁から聞こえてきたのは、制止をあきらめたアヴァタール級の嘆きだった。
「だから言ってんだろォ! 全員で出ていくなァ!」
 おそらく、波状攻撃を仕掛ける作戦だったのだろうが、逆上したギャルたちはもう引きようがない。
「『┣っヶ¨(キ』!」
 拠点の優位は瓦解した。
 ラキアは、突撃槍『《RE》Incarnation』を構えて戦闘態勢をとる。
「複合術式展開。『Call:Flame_Gust(コール・フレイムガスト)』起動」
 炎の塊を形成、突撃してくる敵に対して発射し、迎撃していく。いよいよ距離が詰まったところで、槍を斜めに構えて衝撃を受け流した。
 すぐ横で、ラシュレイが斬りこんでいく。騎士の誉も高い、勇猛果敢な攻撃だ。
 彼が進んでいく先で、ラキアによる炎の塊が、着弾と同時に爆発を起こしていた。
「その髪も衣装も似つかわしくない!」
 燃やして乱し、さらに煽る。ラシュレイは前へ前へと、『勇鼓吶喊(ゆうことっかん)』をしていく。
「悪逆の尖兵共よ! 我等は貴様等に正義の裁きを下す者! 悔い改めるなら良し、さもなくば潔くかかって来るがいい!」
 敵陣に突入した。
 ハイスクールの学生風の集団のなかにおいて、縦横無尽に駆け巡り、妖精剣を振るい片端から切り払ってゆく。
 剣の死角から来るギャルは、ナイトシールドで叩きのめし、盾の縁で切り裂いた。
 デーモンギャルが潔いかと言うと、疑問の余地が残る。ただ、徒手空拳で挑んできてはいる。
 上から叩きつけるような、いわゆるネコパンチ。
 両手を振り回すだけのグルグルパンチ。
 短いスカートからの前蹴り、ヤクザキック
「真正面から組み合うのも一興ではあるが……あまりその容姿は好かん。近付いてくれるなよ?」
 ラキアは、同じ間合いでは戦いたくなかった。
 ラシュレイとマユラも同様らしく、最初の突撃から乱戦に移行すると、包囲されない様に立ち回っていた。ギャル語なる理解困難な言語が、まわりを飛び交う。
 妖精騎士はシールドでパンチを受け流し、赤い瞳は蹴りの流れを見抜いて受け身をとる。
「しかし、もうちとわかり易く喋ってくれんかの? それは何語じゃ? 悪魔語かの?」
 なおも煽ってマユラは、両手の鉤爪をかざした。
「魔力よ、焔となれ……『爆炎爪(バクエンソウ)』!」
 鉤爪に炎を纏わせ、敵を斬り付ける。
「ま、此方とて理解する気もないがの。自慢のふぁっしょんを燃やしてやろう」
 クリーム色のカーディガンが、端から黒く炭になる。
 妖精剣の斬撃が、トドメを刺した。
「何を言っているのか分からない相手だが、おそらくお互い様だ。理解し合う必要も無い。ただ只管に、己が信念をぶつけるのみ」
「ラシュレイさんに同感だが、だとしても、籠もるなら籠もる、突っ込むなら突っ込むで戦い方を統一すればよいものを」
 落ち着いた声の、アドル。
 挑発の言葉はかけていたけれど、仲間はそれを聞いていない。
 本人としてはデーモンギャルの頭の悪さを盛大に罵ったつもりだった。
「まぁ、敵の対応がチグハグだから、そこを突けたわけだが。あとは小細工せず、全身全霊を込めて敵の防御諸共叩っ切る」
 『バーサーク・ブレード』は、迷いなく目標に叩き込む技である。
 光の剣を振るうアンゼリカと狙いを合わせるようにし、再び閉じた城門を目指して、じりじりと戦線を上げていった。
 デーモンギャルの傍若無人さも増してくる。
「テメ―!」
「コノヤロー!」
 ショルダーバッグで殴りつけられると、中にコンクリでも入っているかのような硬さを感じた。針金でも仕込んでいるのか、シュシュやコサージュで絞殺されそうになる。
「しっかり凌いで一撃離脱っと。アドルさん、足を止めずに倒せそうな敵から行くよっ!」
「わかった。突っ込みすぎれば此方が袋叩きだ。そこは注意な」
 両手の剣で、ショルダーバッグの勢いを殺しつつ、後ろに受け流した。空いた背中に反撃を見舞う。
「痛っ! 絶対、ナカにナンカ入ってるっ!」
 アンゼリカは障壁と盾で凌ぐ。
「もう少しで、トループス級を突破だよっ! 数を減らせばそれだけこっちのダメージも減るもの!」
 敵ごと、城門を攻撃範囲に含めた。
 呼吸を整え、最大まで力を溜めた、『光剣閃波(セイバーフラッシュ)』を叩きこむ。
「私達の心の光よ、今こそ最大まで輝けぇーっ!」
 門扉が両断された。
 アドルとともにアンゼリカは、拠点の内部を伺う。
 まだ出てきていないトループスが潜んでいるかもしれない。あの叫びを上げながら、突撃してくるかも。
「ところでギャル語ってどこで学べるの?」
 尋ねられたアドルは落ち着き、首を横に振った。
「いや、別に興味とかないしっ、とにかく倒すだけ! 大声にはひるまないっ!」
 開戦時に、ギャルたちがひたすら喚き散らしていたのは、アンゼリカや頼人の牽制攻撃に対してだった。
 アームドフォートの制圧射撃は、頃合いをみて弾切れを起こした様に見せかけた。
 このフェイントにひっかかり、頼人のところに突撃してきたアークデーモンは、ワイヤートラップを喰らって、転倒させられる。
 ルーズソックスがズタズタだ。
 身動きができなくなったギャルには、『侵略(インベイデッド・ユア・テリトリー)』で全力の一撃をうちこむ。竜骸剣のまえには、ひとたまりもなかった。
「気づくのがちょっとだけ遅かったみたいだね。……星奈、そっちはどう?」
「順調だよ、ジンライくん☆」
 星奈は、ワイヤートラップに便乗させてもらっていた。
「さーて、次の相手は誰かしら?」
 罠を隠す役割も担っていて、キラキラの装飾のついた長柄武器、『キラキランサー』で敵を挑発し、突撃を誘う。
キラッ☆と、やっつけちゃうよー!」
「あー、ウゼェ」
 不思議と、ギャル語のニュアンスが通じる。
「痛てェんだよ」
「あっちのホーダイ野郎は、テメーの彼氏かヨ、チョーシこいてんじゃねェぞ」
 ガラが悪いだけな感じもするが、あくまでニュアンスだ。
 ともかく、喚きながら攻撃を仕掛けてきて、頼人の罠に足止めされると、星奈のキラキランサーに串刺しにされてしまうのだった。
 ふたりは、門から出てきた敵があらかた片付くまで、この連携を繰り返すことなる。
 拠点内部にまだ残っていた敵は、胸壁に戻ってきて、化粧品を投げつける攻撃に切り替えた。ディアボロスがそれぞれに考えた挑発の言葉だが、実のところ、サヨコの小言が一番良かった、いやこの場合はサイアクだったらしい。
「『ぎゃ|レ〆レ)〈』!」
 拠点の防衛が疎かになる状況を、誘発できていた。
 いまも、メイク攻撃をする個体は怒りで半身を乗りだしている。
「化粧はさっさと落としてしまおう」
 サヨコは、灰色の髪に半分隠れた顔を、拭いながら戦う。忍耐力で精神集中を保ち、影響を最小限に抑えるのだ。やかましく大声が飛び交う戦場で、ストイックな姿勢を貫く。
「『流式爆撃戦術』……!」
 巡洋戦艦海戦装『黒姫』から艦載機、1/72スケールの爆撃機型のエネルギーを放ち、胸壁に陣取る敵の頭上から爆弾を落として粉砕していく。
 やがて、ギャル語も野次も聞こえなくなると、胸壁からアンゼリカが顔を出した。
「これで全部かな? あとはアヴァタール級、そしてジェネラル級を追い詰めよう!」
 どうやら、アドルは指揮官が向かった先を掴んでいるらしい。
 サヨコはパラドクス通信も使って状況を伝える。全員で、拠点に踏み込もうと。
 その言葉を直接聞いた者は、悪いと思いながらも、拭い残しの化粧にちょっと反応してしまった。
「ああ、チョベリバだ……」
 昭和生まれが抜けきらない。

 マン島の防御は、海岸から内陸にかけての砦の連なりで成り立っている。アヴァタール級アークデーモンが、次の設備を目指して急いでいた。
「まったくよォ。好き勝手なヤツラだったけど、あそこまで中身がヤンキーデーモンだとは思ってなかったぜェ」
 城門のひとつを突破された『メフィストフェレス』はガラの悪い言葉使いで悪態をつく。
 その後ろに、アドル・ユグドラシア(我道の求道者・g08396)は余裕で追いついた。
「指揮官に統率力がなかったのか、部下がハチャメチャ過ぎたせいか……」
「な、なにィ?!」
 アークデーモンは、心底驚いたように叫んだ。アドルは続ける。
「まぁ、とりあえず指揮しようと努力していたのは聞こえたから、一応同情はしてやる。同情だけで別に慰めたりはせんし、むしろ傷口に塩を塗り込む勢いでお前を片付けるんだがな」
 挑発めいた言葉。
 対抗してメフィストフェレスが、あの城門の外まで漏れていた声で怒鳴るかと思いきや。
「オレ……ワタクシの策にまんまとはまったようデスネ、ディアボロスくん」
 うわずっていて甲高い。
 アドルは眉根を寄せるが取り合わず、黒と赤の剣を両手に構える。
「全身全霊を込めて防御諸共叩っ切る。この期に及んで小細工はなしだ!」
 『バーサークブレード』を発動した。敵は完全に向き直ると、邪眼に妖気を漂わせる。ただ突っ込むだけでは、奴の言う通りに手痛い反撃を食らう可能性もある。
 さっそく、高音モードの囁きがアドルの心にまとわりついてきた。
「デーモンギャルなどほんの小手調べ。ワタクシはもっと強力な種族を従えてイルノデス。アナタは十分に戦いマシタ。城門を墜とした功績を持って、安息できる場所に帰り、ゆっくりなさったラ?」
 甘言とはこうしたものか。
 踏み込みをためらうアドルに、メフィストフェレスはほくそ笑んだ。勘違いで。
 ディアボロスは敵の足を止めさせ、仲間が揃うのを待っていたのだ。援護し合って戦うために。
 駆け付けたマユラ・テイル(みすてりあすじゃ・g05505)が、半笑いで言う。
「残りは頭目だけのようじゃのう」
「お前のことだね、メフィストフェレス
 秋風・稲穂(剣鬼・g05426)は、メイクを落とした顔で睨みつける。ラシュレイ・ローレン(人間の妖精騎士・g04074)は、敵の並べる戯言を覆らせた。
「アヴァタール級のみか。迅速に打倒し、先へと進ませて貰う」
「押し通るぞ!」
 『月光』と『流星』、アドルの両手に握られた剣が、今度こそ心置きなく敵を捉える。
 メフィストフェレスに接近戦を強要した。
「マ、マチナサイ! ワタクシの話には続きが……」
 信念を乗せた一撃は、限界を超える威力を発揮するのだ。黒と赤の刃が交わる先で、アヴァタール級の身体は大きくのけ反った。
 二刀を操る、稲穂も続く。
「もう逃げ場も援軍も無いよ。これで終わりにしようか。……ま、部下に恵まれなかった事は少しくらい同情してあげるけどね。だからと言って手を抜くつもりは全然無いけどね」
「お主等に勝ち目は無しじゃ。天秤は最早、此方に傾いている。で、あるなら潔く此処で滅ぶがよい」
 マユラの武器も鉤爪、すなわち接近戦。
「なあに、上司も後程同じ地獄に送ってやるわ。寂しい思いはせんで済む、良かったのう」
「配下達とは別の意味で、言葉の通じる相手ではなさそうだ。心惑わされる事無く、騎士としての任務を果たさねばならん」
 妖精剣とナイトシールド。ラシュレイが、連携の締めを務めた。
 斬撃をいくつもくらい、メフィストフェレスは手で顔を庇うようにしながら後退りする。
「……チッ、オレとは相性の悪い連中だぜェ」
 また小さく、悪態。
 アドルは油断なく構え、心も落ち着かせる。
「武闘派かと思えば此方の心を揺さぶるつもりとは意外ではあるか。生憎、旅人とはまた求道者の一つの形だ。未知を既知とするために、歩みを止めるという選択肢はそもそも持たんのだよ。武術にしても、俺の一撃はまだまだ目指すものに届いていないのでな。お前を糧にして更にこの剣を極めるのみだ」
「くッ……。人間こそ、供物として畏怖を差し出すだけの存在のくせに」
 アークデーモンが虚勢を張るあいだにも、先の砦を突破したディアボロスが駆け付けてくる。
「あなたがここのボスね!」
 牧島・星奈(星光閃姫☆キラメスター・g05403)が、人差し指を突き付けてきた。傍らには、陣・頼人(武装騎士ヴィクトレオン・g00838)を伴う。
「この星光閃姫☆キラメスターと武装騎士ヴィクトレオンが、キラッ☆とやっつけちゃうよー!」
 レオタードのような装備で身体をくねらせ、最後は半かけの星型をビシッときめた。
「……ほら、ジンライくんもポーズ取って!」
「いきなり無茶振りされても困るんだけど、星奈!?」
 頼人の赤面に、メフィストフェレスは何かを思いついたようだ。
 魔力の翼を輝かせると、接近戦勢を飛び越え、星奈へと急接近した。もちろん、頼人はすぐに仕掛けを施す。
 敵の技が、『高みへ至る永遠の愛』だと、星奈は失念していた。
「……♪」
 『堕落への誘い』の二つ名を持つアークデーモンが、その唇をぴたりと耳元に寄せてくる。
「……!」
 なにやら、囁きかけられると、星奈の身体は硬直したようになってしまう。ただレオタード越しに、胸元だけが呼吸の荒さを伝えて上下していた。
「……☆」
 メフィストフェレスは両手を広げ、後に抱擁を期待させながら、爪を振るってくる。
 八つ裂き攻撃を『キラキランサー』が受け止めた。デーモンギャルに痛がられた華美な装飾の長柄武器だ。
「ジンライくんに化けたってあたしは騙されないんだからね!」
「「え、なんで?!」」
 技を破られたアークデーモンと、無断利用されたディアボロスが同じことを叫んだ。
 顔を見合わせると、メフィストフェレスが先に動く。
「コッチの男から堕落させてりャ……ワタクシにおっしゃってくだサイ。ジンライくんは何をノゾミマスカ?」
「集え、貫け、星の光! インフィニット☆キラメイザー!」
 派手なエフェクトと共に、星奈が突き出した両掌に光が収束し、『堕落への誘い』の横顔へと光条が放たれた。
「いてェ! この女も空気読めねえなァ! ……サァ、ミライにナニヲ?」
 貫かれそうになっても、懲りずに邪眼が明滅する。
「僕達は……」
 頼人の唇が開きかけた。
 促そうと突きだされたメフィストフェレスの顎を、登る竜骸剣が砕く。
「うぐゥ!!」
「僕達はまだ全てを取り戻せていない! 失われたものを取り戻すまで、僕達の戦いは終わらないんだ!」
 マン島の砦はドラゴンたちに合わせて建造されたものだ。頼人の飛翔がある程度の高度を持っても、まだ周辺からは遮蔽された状態にあった。
 けれども、顎を押さえたアークデーモンが、恨みがましく見上げるには十分だった。
「もらったよ、『侵略(インベイデッド・ユア・テリトリー)』!」
 頼人のお得意、仕掛けたワイヤーやスネア、ネットといった罠が、注意を引き付けた相手の身動きを封じる。
 傍の星奈をはじめ、ラシュレイたちはタイミングを合わせて打ちかかった。
 稲穂は『Burn the dark』と『L・デルフェス』を構え、飛翔で最高加速。一気に懐まで突撃し、剣戟の間合いへ。
 逃れられないメフィストフェレスは、身をよじりながらも、言葉を吹き込もうとする。
「……♪」
「例え大切な人の幻で翻弄しようと、私の意思は変わらないよ。君たちを倒せるなら、例え身内ですら斬り裂いてみせる」
 ギャルメイクをくらったときの態度だ。
 悪魔の姿を見えなくされているが、二刀の振りはそのまま。
「小細工なんかに頼らずに、真正面から戦ってきなよ。『天雷覇断(テンライハダン)』、……発動」
 雷刃を両剣へと形成した。
 二刀による斬撃を繰り返し、見させられているものを断ち切る。
 斬った幻覚のさきから繰り出されてくる爪も、雷刃が受け流した。
「大層な名じゃ、メフィストフェレス。じゃが名は名じゃ。それに恐れを抱く妾ではない」
 戦場を駆け抜け、マユラが加わった。
「お主が精神攻撃を得意とするように、妾は近接戦が得手じゃ」
 『双爪連斬(ソウソウレンザン)』、常に距離を詰め鉤爪で斬り裂き続ける。
 高名な悪魔は、なおも邪眼を使おうとしていた。
 刀を繰り出しながら、稲穂の感情は乱高下する。
「往生際が悪い。この状況においてなら、正面から戦った方がきっと楽しい。……いや、ごめん。私の勝手な希望だね。君の戦い方なんだ、否定するのは筋違いだね」
「いやいや、稲穂よ。お前の希望に賛成じゃよ」
 双爪の間合いでマユラ。
「戦うというのなら、やはり切った張ったをしなければつまらんのう。……お主も剣を取れ、搦手も確かに重要じゃが。やはり命のやり取りこそ、生の本懐よ」
 言葉を向けるとともに、切っ先もメフィストフェレスへと。
「アナタたちは、相手が誰であってもそう言い切れるのデスカ?」
「大切な人のこと? 成程ね、嫌らしい幻惑だった」
 稲穂の心は決まる。
「君の戦い方だからこそ、その悪辣さは……此処で終わらせる!」
 雷のごとき太刀筋、よろめいたアヴァタール級は、双爪の届く場所にいる。
「堕落を誘う精神攻撃か、厄介じゃのう……」
 急に、マユラの動きが鈍った。
「やる気も……出んくなる」
「世界を取り戻したとしても、敗北によって失われた名誉や誇りは返って来ない。復讐など負け犬の足掻きに過ぎぬのではないか?」
 ラシュレイの妖精剣が、だらりと下がる。
 ひょっとしたら、かつて焼き払われた領地や領民、全滅した部下や戦友達の幻影が目の前にあるのかもしれない。ナイトシールドを置き、膝から崩れ落ちそうだ。
「ククク……」
 メフィストフェレスが、いかにも悪魔的な笑みを浮かべ、拘束していたトラップを引きはがした。急降下してきた頼人の竜骸剣を避け、星奈の光条をはじき、アドルのバーサークを制する。
ディアボロスくんよ、ナニヲノゾム? ナニヲノゾム!」
 有頂天のアークデーモン。その腹に、ゲンコツがはいった。
「じゃが、だからどうしたというのじゃ。例え鈍ろうとも、例え堕落に落ちようとも、お主を斬り裂き続ければ関係ないのじゃ」
 マユラの腕が動き出している。
「堕落で力が鈍ろうとも、殴りつづけていればいつかはお主も倒れる」
 呻き声のように発せられる言葉に頷き、加勢する稲穂。
 ラシュレイの膝は崩れなかった。
「友に復讐を諌められたなら考えもしよう。だが、貴様等クロノヴェーダがどの口で言うか」
 剣は上向きになり、盾は前へ。
 ディアボロスたちの攻撃が、再び繋がる。頼人に星奈、そしてアドルらの怒りが重なって、大きな力となった。
「この刃は正義の裁き! 己の罪を思い知るがいい!」
 ラシュレイの放った『クロスレイジ』、斬撃による二連撃が、アヴァタール級『堕落への誘い』メフィストフェレスを十文字に切り裂き、吹き飛ばす。
 拠点のひとつを預かっていたアークデーモンに、最後の言葉はなかった。
「未来に何を望むじゃと? お主の終わりじゃ。敵を倒す、ただそれだけだったのじゃ」
 マユラは、拳をさすって呟いた。ラシュレイは誓いをあらたにする。
「自分の為ではなく正義の為。必ずや使命を果たしてみせよう」
 マン島の戦いはまだ続く。
 転戦する前に頼人は、聞きにくそうに、しかし詳しく知りたい顔で星奈に尋ねていた。
「奴はどんな幻覚を見せようとしたの?」
「ジンライくんが出てきてぇ、それから……☆」
 この会話で、ふたりの関係が崩れたりはしないだろう。悪辣なる敵の攻撃を思い、稲穂は漏れ聞こえた話の途中で場を離れた。
「通過点に過ぎんお前に構っていられるものかよ」
 アドルが行く道は決まっている。

『チェインパラドクス』(C)大丁/トミーウォーカー

 

tw7.t-walker.jp