大丁の小噺

大丁です。読み方はタイテイが標準です。※大丁は、株式会社トミーウォーカーのPBWでマスター業務を行っています。ここで関連する告知を行うことはありますが、マスター契約時の規約により、ゲームに関するお問い合わせは受け付けられません。ご了承ください。

全文公開『進軍! キマイラウィッチ』

進軍! キマイラウィッチ(作者 大丁)

 自動人形が去った村で、噂が流れていた。
 近くにあった別の村がもぬけの殻になったと。
「自動人形様のかわりに、天使様が現れたそうじゃ」
「大きな声で誘われて、みんなでいいところへ連れていかれたとか」
「四つ足の女が同行してくれるらしい」
「帰ってきた者はだれもおらん」
 老人たちのおしゃべりを黙って聞いていた若者が、とうとう口を挟んだ。
「誰も帰ってきてないんじゃ、その話はいったい誰がしたってーの?」
「それは……うん? なんか、聞こえんか?」
 耳をすませた村人たちは、ある者は天使の声を聞き、ある者はやかましい騒音を聞いた。
 そして、異形の女を見た者も。
「たくさん、走ってくるぞ! あれは四つ足じゃねぇ、獣の上に女の身体がのっかって……!」
 爪と牙で引き裂かれる。
 声を聞いた者は、意識を乗っ取られた。
 村が全滅した悲劇は、まだ回避可能である。

「攻略旅団の提案により、断頭革命グランダルメに増援として現れるキマイラウィッチの動きを察知することが出来ましたわ」
 パラドクストレインの車内で、時先案内人が依頼をしている。
 この列車の担当は、ファビエヌ・ラボー(サキュバス人形遣い・g03369)だ。
「ディヴィジョン境界の霧を越えて火刑戦旗ラ・ピュセルから断頭革命グランダルメに移動してきたキマイラウィッチは、イベリア半島に向かって移動しているようです。この道すがらに村があれば、その村を襲って虐殺行為も行います。皆様には、このキマイラウィッチの凶行を止めて、増援を阻止するためにも確実に敵を撃破していただきたいのですわ」

 ぬいぐるみの助手が現地の地形図を広げた。
「今から向かえば、キマイラウィッチの襲撃の少し前のタイミングで、村に到着することが出来ます。まずは、一般人を戦場となる場所から避難させた上で、キマイラウィッチを迎え撃ってくださいませ」
 村人を動かすには説得が必要だ。
 ただし、今回は戦闘が終わるまでの一時的なものであり、村の近くの森に隠れていてもらうだけでいい、とのことだった。
「村を戦場にするしかありません。今回の依頼では、破壊された村の修復など、支援を行う猶予はありませんから、そこはご了承ください。村人には、先に謝っておくことも説得のうちかもしれませんわ」
 予知の内容が話され、襲ってくる敵について説明があった。
「一般人を襲うトループス級は、『マンティコアウィッチ』です。すでに何回か目撃報告のあるキマイラウィッチですわ。指揮しているのはアヴァタール級『洗脳と平和』ハニエルで、大天使ですが行動指針はすっかりラ・ピュセルのものになっています。一般人を見れば襲い掛からずにはおれず、洗脳や平和、愛の言葉も虐殺の手段として使ってきます。ご注意ください」

 プラットフォームに降りる、ファビエヌ。
「進路上の村々は、大陸軍から見捨てられたのです。すぐに出来るイイコトは、村人の命を守ることですわ」

 列車の到着地点から、予知にでていた村まではすぐだった。
 その短い道すがらであっても、リーシャ・アデル(絆紡ぎし焔の翼・g00625)は腹立たしさに声を荒げている。
「増援ついでに虐殺しながら移動とか、ふざけんじゃないわよっ!!」
 クロノヴェーダに対しては当然の感情だろう。
 復讐者なのだから。
 アッシュ・シレスティアル(蒼破拳・g01219)は、悪魔装甲の物々しさ。
「たゆんの気配を察知して参上したぜ」
 金属の籠手を打ちつけて気合をいれる。武器の準備も万端だ。村の外観はごく平凡で、それなりに生活が営まれている気配がある。武装した姿を見せれば、臨戦態勢感も出せるかもしれない。
「まずは避難誘導をしていかないとな」
「じゃ、アタシからね。『避難勧告』から始めるわよ」
 予知が現実になるのに時間的な猶予は無かったのだろう。効果を発動させるとすぐ、村全体に赤い光が明滅し、時代に合わせたサイレンが鳴り響く。
 戸外にいた人は寄り集まり、方々の扉も開いた。
 ただ、人影は増えていくが、みなまごついている様子だ。
「自動人形様のかわりに現れるという、天使様のおよびじゃろうか?」
「いいところに連れて行ってくれると噂の……」
「それにしては、気持ちがザワつく音だってーの」
「うん? なんか来るぞ!」
 男性に指差されながら、リーシャとアッシュは集落のなかへと踏み入る。
「もうすぐこの村に怪物共がやってくるわ、アタシはそれを見たから急いでこの村に来たの」
「俺たちはディアボロス、道中で敵の大群を確認したんでここに来た」
 ふたりとも、要件から切り出す。
 『友達催眠』がかかっているから、多少のぶしつけは許されるだろう。なにより、急ぐ。
 老人のひとりが、代表のように問いかけてきた。
「怪物……? 天使様のはずじゃがのう」
「ああ、怪物だ。行軍がてら遭遇した一般人を虐殺するような奴らで、このままここにいたらあなた方も対象になっちまうんだ。急な事で申し訳ないが、今すぐ村を出て近くの森などに身を隠してくれないか?」
 アッシュの鎧は効果があったらしい。
 素朴な村ゆえ、これまでも自動人形の軍隊による乱暴狼藉はなかったと思える。武装した姿に対しても、恐ろしさよりも、守護者への安心を感じてくれたようだ。
「仰せの通りにします、ディアボロス様」
 村人たちは、それぞれの家族が揃っているのを確認し、端から森へと動き出す。
「俺たちとしては奴らのことをみすみす見逃すわけにもいかないんで、ここで滅ぼす。ただ……場所が場所なんで建物などにも被害が出るかもしれない」
 最後まで残った老人と若者たちに、村が戦場になることも伝えた。リーシャは頭を下げる。
「村の建物が壊される件は……可能な限り、努力するとしか言えないわ、ごめんなさい」
「極力そうならないように気を付けはするけどな」
 アッシュはもう武器を抜いて、敵の来る方角へと移動していった。
「それでも、あんな奴らに村ごと壊されて命を落とすよりは……どうか、どうか、最善の選択ではないにせよ、命を守ることを優先して、逃げてください、お願いします」
「ああ、ああ。わかっておるよ。怪物退治は任せますじゃ」
 老人と、付き添いの若者も集落から出ていく。
「天使様の噂を聞いても不安なだけじゃった。村より離れた場所のことが判らず、孤立して過ごしておったからの。怪物の話だったとしても、知らせてくれてありがたい。どうか、みなさまも命を大切に……」
 去り際に、より深く頭を下げられ、リーシャはキマイラウィッチに対する怒りを増幅させる。
「ここで絶対にぶちのめして、少しでも数を減らしてやるわっ!!」

 村の入り口でアッシュ・シレスティアル(蒼破拳・g01219)は備える。
「さてと、ここからがお楽しみの時間だ。まずはマンティコアの方からって事でしっかり拝ませてもら……処理させてもらうぜ!」
 視覚支援デバイス『たゆライズ』を起動した。
 バトルグラス型で、戦闘映像保存機能を有する。すぐに敵接近の信号が発せられたので、身の丈ほどの長さの双刃刀『ヴァルディール』を構えた。
 背後方向から、アッシュの頭を越えて、飛翔していく者がいる。
「さぁて、来たわねキマイラウィッチ共。跡形もなくぶっ潰してやるから、覚悟しなさい!!」
 追いついた、リーシャ・アデル(絆紡ぎし焔の翼・g00625)だ。
「確か、飛行中は目立つから多数のクロノヴェーダが警戒する中だと集中攻撃を受けやすいんだっけ? 逆に言うと、こっちに注意を引き付けたい時には好都合ってことよね?」
 はたして、四つ足のトループス級どもは、道の幅をはみ出し、横に広がって迫りくる。
 『マンティコアウィッチ』の名の通り、怪物プラス魔女だ。人面の獅子ではなく、獣の頭部のあるべきところから、さらに女性の上半身がついている。花束のような意匠の杖を両手で抱いており、空中にいるディアボロスへと、その先端を向けてきた。
 目論見どおり、とリーシャはほくそ笑む。
「あいつら、こっちの姿を見たら、気をとられるはずだからね」
 杖から魔術で、花びらを打ち出してくる。『復讐のグロリオサ』は触れたものを燃え上がらせるのだ。リーシャのすぐ近くで、連続して発火が起こった。
「うまく、引き付けられた。村の被害は可能な限り防ぐわ。アタシがダメージを負ってでも!」
 実際のところ、最初のグロリオサで、服のあちこちが焦げてしまっている。胸元のそれを確認がてら、後方の様子を覗き見ると、幸いなことに、この発火現象は、村の建物には届いていない。
 天使の翼を大きく羽ばたかせ、リーシャは敵軍へと突っ込んでいく。
 アッシュは、そうした仲間の動きを意識し、上に注意を向けていない敵を優先する。『たゆライズ』には、村への直進速度を緩めない魔女が捕捉されていた。解析結果によれば、彼女らの胸部を守る防具は、いわゆるハーフカップのような形状で、下から支える構造になっているらしい。
「たゆんはいいけど、このままじゃすれ違っちまう」
 双刃ヴァルディールに、稲妻を纏わせた。復讐で動くやつらなら、挑発にものってくるだろう。
「それに、こっちを狙ってもらわないと正面からの記録映像が撮れないんでな」
 捕捉していた魔女が、ほかの個体にも指示らしきものを出した。
 小集団に纏まり、進行方向を地上のディアボロスに変更したようだ。空中で戦う仲間の安否は気になるが、任せて大丈夫だという信頼がある。アッシュは、自分の相手に集中した。
 上から見ていたリーシャも意図を汲み、翼をいっそう羽ばたかせた。
「舞え、炎の輪よっ!」
 回転する無数の輪を出現させる。
 燃える花びらを打ち出してくる敵の魔術に、『翠焔・創像(ブレイズ・リアライズ):フレアスラッシャー』で対抗した。
 杖を差し向けてくるマンティコアウィッチが、次々と炎の輪に切り裂かれていく。『人食い獅子の狩猟』で、アッシュに飛び掛かった集団は、獣のほうの前脚で魔装装甲を踏みつけ、爪を立ててきていた。
「わざわざ飛び込んできてくれてありがとさん……っと!」
 即座に、パラドクスの雷を纏った得物で攻撃だ。
「悪事を働くたゆんども、このたゆんスレイヤーが相手をしてやるぜ。『ライトニングテンペスト』!」
 一体目を感電させ、縦横に激しく揺さぶらせた。ハーフカップでは支えきれないほどに。
 この雷撃は、連鎖するように広がりながら敵の群れを焼き尽くす。
 トループス級の小集団は、村への進路はおろか、その場でバタバタと倒れた。
「ふぅ、意図せず至近距離のたゆん映像が手に入ったぜ」
 怪物の姿を、さらに異形化したマンティコアウィッチ。魔女の上半身部分は、討伐対象としては申し分なかった。
 押さえつけられた姿勢のまま、アッシュは双刃を振るう。
 電撃連鎖と、炎の輪の切り裂きで、襲い来る脅威をせん滅した。
「アッシュ、だいぶやられたみたいだけど、平気よね?」
 空から降ってくる気遣いに、仰向けで返す。
「リーシャ嬢こそ、服がボロボロじゃねぇか」
 ふたりして、村への被害を減らすよう、がんばった結果だ。
「気を付けとけよ、これからアヴァタール級が……」
「あー。あー」
 ザラついた声が響きわたる。
 拡声器を通したそれは大天使、洗脳と平和『ハニエル』のものだ。

 残る敵は、指揮官の一体のみ。トループス級をせん滅したディアボロスが、飛翔で体勢を立て直すあいだに、応援の部隊が到着した。
「村の被害を防ぎながら戦う方針と聞いた。俺も、それに倣おう」
 落ち着いた雰囲気だが、背の低い12歳の女の子。
 ザイン・ズワールド(剣・g09272)は、スレイヤーソードを抜いてアヴァタール級へと接近する。
「リーシャ殿、アッシュ殿。それがしも助太刀に参った。大天使の生き残りなどに、勝手はさせぬ」
 人間の戦国武将にして、古風な言葉使い。
 襲名したものゆえ、19の娘が蘇芳・昌義(8代目蘇芳衆頭領・g08681)とは、事情を知らない者は驚くかもしれない。
「『虎丸』、クロノヴェーダはおなごの姿だが、遠慮はいらん」
 ミニドラゴンは一声鳴くと、先行した。
 新宿島でみたような現代的な服装、学校の制服から羽根を生やしたアヴァタール級にむけて、『ミニドラブレス』を吐く。
「あー!」
 ざらついた声で、『洗脳と平和ハニエル』は悲鳴をあげる。
 昌義は、手の振りで虎丸に動きの指示を与えると、忠実なサーヴァントは、女学生の周囲に浮かんでは、ブレス攻撃を続けた。
「蘇芳衆の底力思い知るといい」
「いちち。このぉ、ちっちゃいヤツ! 私の言うことを聞きなさい。なんちゃら衆のほうを向いて!」
 ハニエルは、メガフォンを口にあて、ミニドラゴンへと自分の命令を伝える。
 危うく、昌義の脇をかすめる、竜の息。
 虎丸が敵の手に墜ちた、というほどではないが、指示する手には追従させづらい。洗脳を司る大天使は、メガフォンの力でそれを行うのだ。さらに、『幸せボイスシューター』を使えば、『声』が物質化する。
「目の前の村も興味あるけど、あんたたちから、『平和』にしてあげよぉ」
 角ばった二文字が飛んできた。
「――参る」
 スレイヤーソードが、『平』を弾き、『和』をへんとつくりに両断した。
 しかし、使い手の姿は見えず、剣だけが浮いている。
「俺は一振りの剣、鞘にも見捨てられた孤独な剣だ。だが……」
 武器から、ザインの声がする。
 『翔け、斬る(ゲキハイボウボツ)』は、『剣(レプリカ)』と一体化して、自身が『“剣”』となる技なのだ。
「本当の平和を待っている村人たちのため、俺は敵を斬るだけの剣で構わない」
「それがしも、クロノヴェーダの狼藉は赦せんな!」
 サーヴァントへの指示が取り戻され、昌義は上体ごと大きく手を振った。
 銀の長髪もなびく。
「ふ~ん?」
 八重歯をのぞかせ、ハニエルは笑っている。

「それが、『洗脳と平和』か。ハニエル?」
 アッシュ・シレスティアル(蒼破拳・g01219)は、低空の飛翔で近づきながら、仲間たちの攻撃を見守った。上空では、リーシャ・アデル(絆紡ぎし焔の翼・g00625)が、リアライズペインターの力で、『描雅』を始めている。
「勇気の焔よ……」
 燃える何かが形になりつつある。
「……ふむ、かたちと言えば、中々のサイズでかっこいいたゆんをお待ちで」
 制服の胸元が、大きく盛り上がっているのも、もちろんよく見る。アッシュの観察のなか、ハニエルの『武器』は、上を向いた。リーシャを狙っているようだ。
「にしてもこの距離この人数で拡声器なんているか? 天使の声の主さんよ」
「うるさいわねぇ、鎧の木偶の坊さん。私は、たくさんの人間に幸せを届けなきゃならないのぉ。あんたたちと違って、復讐と付き合っていくのは、『大変』なんだからぁ!」
 二字が手裏剣のように回転して飛び出した。
 『大』のボイスは、切れ味が良さそうである。
「いや、俺だって十中八九拡声器で力を増幅する感じだろうてのはわかってるさ。……その耳障りな音あんま好きじゃないんだよな」
「ふ~ん?」
 ハニエルの八重歯がまた除く。
 飛んで行った手裏剣ボイスは、リーシャに届く前に消滅した。勇気の心を宿した火の鳥が、彼女の前で羽ばたいている。ボイスを燃やしたらしい。
「復讐と付き合うって、キマイラウィッチたちのことかしら。あちらこちらに散らばって媚び売って、大天使様も大変そうねぇ?」
 リーシャは、標的を指差した。
「まぁ、お前らがどう動こうが全部叩き潰すつもりだから容赦なんてしないんだけどね? ……羽撃けっ!!」
 号令に合わせて、火の鳥が急降下していく。
 『翠焔・創像(ブレイズ・リアライズ):フェニックスブレイヴ』が、ボイスだけでなく本体も炎につつんだ。
「きゃー!」
「ほら、天使さまはいい声してるからな」
 アッシュは、メガフォンからズレて聞こえた悲鳴に称賛を贈る。
「どうせ歌声披露してくれるなら、もっと直で聞かせてくれ」
 炎をはらった女子高生に、最接近して双刃刀を突き付けた。合わせて、ザインの一体化した剣が、横切りをくり出す。火の鳥が旋回して戻ってくるあいだに昌義の指示のもと、ミニドラゴン『虎丸』がブレスをぶつけた。
 ディアボロスの連携が効いて、ハニエルは焦りの表情を浮かべるが、口元だけは相変わらず笑っている。
 得物のメガフォンは大事そうにして、剣や刃から守っていた。
 あれを壊せたのなら大幅な戦力減になるのは確かだが、それが叶わなくともアッシュは、ひたすら攻撃を仕掛けている。果たして兜の内側では満足そうにしていた。
(「せいぜい動き回ってもらってそのたゆんを揺らしていってもらうぜ! ……もちろんこの光景は『たゆライズ』で記録しておくからな」)
 ハニエルの笑みも気になるところだが、おおかた誘惑のための予備動作だろう。
 伊達にたゆんスレイヤーはやっていない。これまでに培った経験や閃きがあるのだ。あと、撮影した動画も。
(「けどな、……音は防ぎようがないんだよ」)
 アヴァタール級はときどき、メガフォンを近づけてなにかしゃべっている。
(「たゆんのかたち、調和がとれてる。もう、愛だな。こりゃあ……」)
「アッシュ!!」
 リーシャの声がふってきた。……気がした。
「アッシュ殿……!」
「お前、足が止まってるじゃないか!」
 昌義に、ザインの声も。
「ハッ!?」
 知らぬ間に、大天使の発する『愛と調和の歌声』に、誘惑されていたようだ。
「チッ!」
 舌打ちで、ハニエルの口元が初めて歪んだ。
「それでも俺は! たゆんを見る! たゆんスレイヤーとして悪しきたゆんを排除しなければならないという使命感を想起させ、こいつを喰らわせてやるぜェ!」
 アッシュの指がそろい、魔力で硬質化した貫手が、制服の上着の裾から差し込まれた。
「『ペネトレイトクロー』!」
 鋭さに背中側から突き出して、翼が片方もげた。アヴァタール級大天使、洗脳と平和『ハニエル』への致命傷だ。
 メガフォンは手からすべり落ち、うめきもせずに絶命した。
 脅威は去ったので、村人たちを呼びに行きたいところだったが、案内人からの話のとおり、すぐに排斥力が働きはじめたようだ。ディアボロスたちは慌ただしく、パラドクストレインへと戻る。
 帰還の道も、遠くはない。

『チェインパラドクス』(C)大丁/トミーウォーカー

 

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