大丁の小噺

大丁です。読み方はタイテイが標準です。※大丁は、株式会社トミーウォーカーのPBWでマスター業務を行っています。ここで関連する告知を行うことはありますが、マスター契約時の規約により、ゲームに関するお問い合わせは受け付けられません。ご了承ください。

全文公開『愛情をもって育てます』

愛情をもって育てます(作者 大丁)

 畑には違いないが、森林だったところをクロノヴェーダが力任せに開墾したらしかった。
 ソロモン諸島の中央州に含まれる、小さな島だ。
 樹々がへし折れていたり、不自然に土が盛られていたりする。肝心の作物の植え方は丁寧で、10列×10列にちょうど100本。
 人間の顔が埋まっていた。
「う、ううう……」
「助けて、助けてください」
「……」
 かぼそく声をあげている者もおり、ほとんどは意識がある。意識があるまま、顔のすぐ横の『知恵ある植物』の栄養となっているのだ。
 黒いドレスの女性が、列と列のあいだを行き来していた。
 世話係のアヴァタール級フローラリアだ。
「大きくなってきましたわ。わたくしが、愛情をもって育てておりますもの」
 このような相手であっても、近くに歩いてこられれば、人はすがる。
「うう、許して……」
「はい。どういたしまして。あなたは許されたから、知恵ある植物になれるのですよ」
 もちろん、フローラリアはとりあわない。
 愛をあたえ、愛されていると思うから。
 すでに、栄養をすべて抜き取られた者たちが何人もおり、干からびた遺体が畑の周囲に無造作に積み上がっている。

 新宿駅グランドターミナルに、攻略旅団の提案を受けた列車が出現した。
 ファビエヌ・ラボー(サキュバス人形遣い・g03369)は車内に依頼参加のディアボロスを集める。
「バンダ海海戦に無事勝利できましたわ。冥海機ヤ・ウマトはインドネシアの資源を利用できなくなるでしょう」
 人形遣いによって、ぬいぐるみが海図を広げる。
 その一部は、前回のヤ・ウマト関連依頼でも掲出されたものだ。
「遠からずインドネシア奪還軍なども組織されるかもしれませんので、再奪還されないように気を付ける必要はございますが、バンダ海を制圧したことで、南太平洋への海路が開けたようです」
 海図の東側が追加された。
「皆様には、攻略旅団の方針に従い、海に沈んだ大陸の伝承がある太平洋中央に向かい、ゆくゆくは、冥海機ヤ・ウマトと黄金海賊船エルドラードの最前線となる、ガラパゴス諸島を目指していただきます」
 ぬいぐるみが、持ちきれないほど図を足していく。
 遠大な距離を移動する長期間の作戦となることがわかる。
「戦況が変わって探索が難しくなったり、探索の意味がなくなったと判断した場合は、攻略旅団で探索の停止を提案してくださいませ。今回の探索は、バンダ海から東に向かった『ソロモン諸島』となります。ソロモン諸島は、オーストラリアから漂着したフローラリアに与えられているようですわ。フローラリアは、ソロモン諸島を新たな妖精郷とするため、知恵ある植物を育て始めています」
 過去の依頼の資料なども、どんどん出てくる。
 それによれば、妖精郷では、フローラリアは知恵ある植物とエルフが融合して生まれていたが、これにはさらに前の準備段階があったようだ。
 ソロモン諸島で行われているのは『知恵ある植物』の創造だ。
 一般人を肥料として知恵ある植物を創造する。その知恵ある植物と生きた一般人を融合させてエルフを創造する。
 さらに知恵ある植物とエルフを融合させてフローラリアにする……と、こちらも果てしない計画のようだ。
 ファビエヌは、いわゆる中吊り広告の留め具をいくつも使って資料を並べた。
「正直に申し上げますと、2年後に行われる『戴冠の戦』に間に合う可能性は皆無なので脅威度は高くありません。ですが、多くの一般人が、フローラリアの農園の肥料として命を落としつつあるのです。放置する事はできませんわ」
 以降の探索の足がかりにする上でも、フローラリアの撃破は必要となる。

「現地の農園では、一般人が肥料として生き埋めにされており、その横で植物が育てられています。植物が育ち、知恵ある植物になると、肥料となった一般人は死亡してしまいます。既に、数十人の犠牲者が出ているようなので、これ以上の犠牲者を出さないように知恵ある植物農園を潰してください」
 案内人の指がもう一本たった。
「ただ、トループス級フローラリア『ヴァインビースト』が、海岸近くの難民キャンプのような集落で、一般人狩りを行う命令を受けています。肥料となって亡くなった一般人のぶんを補充するためですわ。農園と同時にビーストの撃破も行っていただきたいのです」
 資料によれば、ソロモン諸島の難民キャンプは、台湾から避難してきた一般人の中で、利用価値が低いと判断されたものが、運び込まれているらしい。
「農園に生き埋めにされた一般人は、アヴァタール級フローラリア『ディエリアナ』の世話で無理やり生かされている状態なので、埋まった状態でディエリアナを倒すと多くは死んでしまうようです。アヴァタール級と戦闘しつつ、数十人の生き埋めにされた一般人を掘り出して救出してください。一般人は酷く疲弊しており、いつ衰弱死してもおかしくないので、救出後のケアも重要となるでしょう。それが完了すれば、アヴァタール級を撃破しても被害は増えません」
 手順の多い依頼だからか、ファビエヌはそれを指折り数えて案内する。
フローラリアを一掃したあとのことです。農園の周囲には干乾びた一般人の死体が多く積み上げられているので、最後に彼らの埋葬もしてあげてくださいませ。それで、依頼は完了となります」

 ファビエヌは、役割分担などの相談を促し、ホームに降りた。
「これだけの悪行を行っていながら、フローラリアには悪意が無いようです。彼らは、一般人が知恵ある植物になる事は、一般人にとっても良い事だと信じているようです。どうか、みなさまで、もっとイイコトをなさってください」

 死体は、またも積み上がった。
 知恵ある植物が、収穫されたからだ。ディエリアナは、配下に命じる。
「お願いがありますの。海岸の集落にいって、人間をかってきてくださいな」
 ツルやツタで構成された肉食獣たちは、大きく吠えて森を抜けていった。
 その様子を、ディエリアナは見送る。
「みんないい子。わたくしの愛で、島ごと包んであげたい」
 豊かな胸部を、自ら抱きしめるようにして身を捩る。

 中央州の小島に上陸したディアボロスたちのなかに、年少で小柄な女の子たちがいた。
 月鏡・サヨコ(水面に揺らぐ月影・g09883)は10歳だ。
「バンダ海の制圧が成った今、これからの戦いをどう進めていくかには議論の余地がある……」
 零式英霊機だからなのか、出身によるものなのか。
 口ぶりは硬い。
「ことによっては、ヤ・ウマトとエルドラードの最前線を追いかけるよりも、東南アジアの平定に戦力を向けるべきだろうか」
「うーん、ヤ・ウマトのフローラリアも、すごい先を見据えた作戦だし……」
 ちょっとだけ背が高くて、3つ年上のハニエル・フェニックス(第七の天使・g00897)は、よっぽど子供っぽいしゃべりをしていた。
「肥料が一般人じゃ、後回しにもできないね。でもそうするとあっちもこっちも一気に助けないといけないのかぁ、大変だけどここは皆で何とかしなきゃね!」
「同感だ。今ここで察知できた殺戮を無視はできない。島を解放するために、往こう」
 洋上の重点についての考えを、サヨコはとりあえず脇に置くことにする。ハニエルの指摘したとおり、この依頼も方々を同時に見据える必要があるからだ。
「私はとりあえず、まだ捕まってない人を守りに行こう。捕まえるのが目的でも、一般の人達が抵抗したら傷付けられたりするかもだし」
「よし。敵が襲撃しようとする場所が分かっているなら、待ち伏せて撃滅できるはず。戦いに集落を巻き込まない、少し離れた位置で戦いに持ち込めるように待機すればいい」
 その提案が通り、ディアボロスたちは茂みに姿を隠して敵を待ち受ける。
 サヨコは森林迷彩服を身に纏い、『完全視界』によって視界を確保して、薄暗い葉陰にいても索敵に支障がないようにした。やがて、同じ植物の組成であっても、はっきりと獣の特徴をもったモノが、木々のあいだに浮かび上がる。
 『ヴァインビースト』の群れだ。
 敵の姿を認めたならば、英霊機は『銃剣付歩兵銃』による『精密狙撃』で戦端を開く。
 いくばくかのダメージを与えたことで、トループス級は戦闘態勢をとる。ディアボロスと対峙し、集落への危険度は下がったろう。
 フローラリアのトループス級は、全身を構成する植物の蔓をほどき、ハニエルの居場所まで伸ばしてきた。
「手さえ自由に出来れば矢は射てるんだよ!」
 巻き付かれて気持ち悪い。
 締められる痛みもあるが、ファンシーな錫杖『ムーンロッド』を支えに隙間を広げ、なんとか耐えている。あと、衣装がずれて、ちょっと恥ずかしい。
 蔓は、ハニエルに噛みつくために、彼女の身体を引き寄せた。
「逆に当てやすくて良いくらいかも!」
 両腕を戒めから抜き出して、弓状の剣『エンジェル・ムーン』に、光の矢をつがえる。
「蔦の塊って感じで、射掛けてもすり抜けちゃう所とかありそうだけど……頭なんかは射抜けそうだよね」
 狙いをつけていると、別の個体が口を大きくあけて、獣の咆哮をあげはじめた。
 『デッドリーハウリング』が、射撃中のサヨコに向けられている。
 先に、天使っぽい光の矢が放たれた。
「『エンジェリック・アロー』、キミのハートにブルズアイ、だぞ☆」
 ハニエルはまず、自分を噛もうとしている頭部に命中させた。拘束が解け、地面に落っことされると、すぐさま伏せ撃ちの姿勢をとり、サヨコを援護する。
 彼女は、高い位置をとろうと木の枝に足をかけている。
 咆哮していたヴァインビーストは、全身からガスを噴出させた。浴びた者の身体を蝕ませる毒素を防げるか。
「……捉えた」
 樹上からの精密狙撃で、ビーストの頭部を正確に撃ち抜き、粉砕する。
「サヨコちゃん、やったぁ♪ 私も一体ずつでも確実に仕留めて行くぞ☆」
 ハニエルは、起き上がって後退しながら光の矢を射る。
 ふたりは、敵から一定の距離を保つようにして、銃撃戦を展開した。枝葉のあいだを、弾丸と矢と、蔓とガスが何度も行き来したが、ついにヴァインビーストを構成する植物のすべてが、しなびて枯れるか、バラバラに吹っ飛ばされる。

 樹上からなら、海岸近くの集落がわずかに見えるらしかった。
 難民には被害がなさそうだと、仲間の合図を受け取りハニエル・フェニックス(第七の天使・g00897)は飛び立つ。
「今度は埋まってる人を助けに行かなきゃ」
 クロノヴェーダが根拠地としている場所に、飛んで近づくのは危険だ。
 ゆえに今回の作戦では有益となる。
「味方が掘り出す手筈になってる。私はその邪魔をさせないように、アヴァタール級の気を引く所から!」
 『知恵ある植物』の農園は、情報通りに森の中にあった。
 樹々を乱暴に切り開いたあとがある。
 黒っぽいドレスの女が、ハニエルの飛翔をみとがめ、顔を上げてきた。
「あのアヴァタール級はお世話係。栄養にされてる人たちを救出する前に倒しちゃうと駄目なんだよね、そこはちょっと難しいな」
 天使の翼をもうひと羽ばたきさせると、ハニエルのそばに、回転する光の輪が無数に出現した。
「リングスラッシャーの光輪だよ!」
 飛翔に加えて、目立つのは確かだ。
 フローラリア種族の『ディエリアナ』は、空からの襲撃者を歓迎するかのように笑顔を浮かべた。四肢の区別がつく程度の距離なのに。ハニエルはいぶかしむ。
「敵の攻撃が、もう始まってるのかな。単なるビームならまだ良いんだけど、あの顔に魅了されちゃうのはちょっと気持ち悪い……!」
 先手はとれているはずで、地上をめがけて光輪を放った。
 黒ドレスの裾に、何か所もの裂け目をつくることに成功する。態度から、ディエリアナが戦闘に気を取られているのは間違いない。
「よしよし……。騒ぎを起こせば、弱った人を避難させる時間も稼げるはず」
 引き付けながらハニエルは、飛行ルートを農場から遠ざけようとするが。
「『わたくしに堕ちてくださる?』」
 優しい声が耳をうった。
 いや、撃たれたのは、絶対悩殺光線にだ。
「と、とにかく、気を強くもって……」
 意識は保てている。
 にもかかわらず、戻ってきたリングスラッシャーが、ハニエルの片翼をかすめた。大きなダメージは負っていないが、赦せないゲージは振り切れる。
「自分を傷つけちゃうなんてハニィちゃんには似合わない! 精一杯抵抗するぞ!」

 空対地上で展開されるディアボロスの戦いを、チラとだけ見て森住・奏(キッティコーダー・g10526)は、農園へと進み出た。
「私にはまだ十分戦えるだけの力がないから……せめて、一人でも多くの人を助けるよ!」
「はい。人間はエサでも肥料でもないのです。これ以上、犠牲者が出ないようにしなくては」
 土岐野・有人(ファントム・オブ・ザ・シルバースカイ・g02281)は、装備のほかにいくつかの道具を持ち込む。それらを置いた土のそばに、埋められた者の顔があった。
「気を確かに。少々お待ちくださいね」
「絶対に助かるから、諦めないで!」
 ふたりが声をかけると、カラカラにひからびた唇が動く。
「う、うう。助けとは、植物に生まれ変わる……ってこと……?」
 吸われた栄養のかわりに絶望を注ぎ込まれている。奏は潤む瞳を、がんばって細めた。
「ほら、見える? 私の仲間が今悪い人たちと戦ってるから、安心して。みんなも、助けにきたよ! なんだか力も湧いてきたでしょ?」
 言いつつ、有人に借りた道具を、最初のひとりのそばに差し入れる。
「……よいしょ、よいしょ……ふぅ、土を掘るって大変……みんなは農作業とかもするんだよね、すごいね! こんな大変な仕事をしてるなんて、私はお部屋にこもることが多いから……」
 奏が話しかけ続けるのは、一般人に意識を保ってもらうためだ。
 有人は、高価そうな服が汚れるのも厭わず、力仕事に勤しんでいる。
「ハァ、ハァ、……残念ながら……ちょうど良いパラドクスは持ち合わせていませんので……、地道にスコップで掘り出しましょう……ふぅふう」
「ああっ、目を閉じちゃだめだよ! 気をしっかり持って! みんな、頑張って!」
「あ、ありが……とう……」
 ただの畑仕事ではない。
 アヴァタール級の注意がそれている僅かな時間で、100人を救出せねばならないのだ。それでいて、埋まっている人を傷つけないような繊細さも要する。
 おおまかにスコップを使ったあと、最後は素手で土をどけた。
「少しでもみんなの体力の回復を試みるよ」
「応急処置もしよう。器具と薬品ならあります」
 ふたりともが持ち込んだ『活性治癒』。そして、トループス戦で先行した者も効果を残留させてくれていた。有人は『Pochette Medic』、医療用の装備も併用する。
「自力で動ける元気のある人には、動けない人が逃げるのを手伝ってもらいます。一人でも多くの人を助けたいですし、皆さん気合い入れてください」
 肥料にされていた期間の違いか、半数以上を助けたあとは、その中から救助に協力できる者もでてきた。
「ああ、畑から出られた……」
「なんて言ったらいいか。お礼をしたいが、オレたちには何もない」
「そんな! いまは生きる事だけ考えて。またいつもの日々がきっと戻ってくるからね」
 奏の口からは、ほんとの明るい声がでる。
 有人は、自分たちが潜んでいた森を指し示す。
「あ、逃げるのはアヴァタール級のいない方向でお願いしますね。アレはこの後で退治しておきますから」
 振り返って睨む。
 フローラリアの後ろ姿を。

「さて、救助できる方は救助したことですし、フローラリア・ディエリアナを退治するとしましょう」
 掘り起こした土をまたいで、土岐野・有人(ファントム・オブ・ザ・シルバースカイ・g02281)は戦場に駆け付ける。汚れた服のままでも、優雅な態度は崩さずに敵と対峙した。
 挨拶を交わそうとすると、先に黒ドレスがひるがえり、妖艶なささやきが聞こえてくる。
「あなたも……わたくしに堕ちてくださるのですか?」
「……」
 一目見て、対話する意欲が失せた。
 根本的に価値観も考えも違いすぎるのだ。
「後顧の憂いが無いよう、ここで駆逐させていただきます。……それはともかく」
 絶対悩殺は厄介だ。
 スコップを使っている間も、味方の戦いを覗き見ていたが、会話するだけでも危険そう。ハニエル・フェニックス(第七の天使・g00897)が嫌がっていたのも印象深い。
 じっさい、土工道具から持ち替えたナイフ、『Dague en argent』の刃先が、自身に向きかけているではないか。
「的を分散させる意味でも、お互いに離れて戦った方がいいですね」
 大声を出して話しあわずとも、身振りでハニエルとは通じた。
 空中の天使は高度を下げることにする。
「よーし、生き埋めにされてた人は皆が助けてくれたみたいだね。……じゃあ私も頑張って、もう一押しと行こうかな!」
 目立って敵の気を引く必要は無くなった。
 上から見ていたが、強引に開墾された農園には、倒木や盛り土がそこいらにある。
 それらを遮蔽物に使い、不意打ちを仕掛けるのだ。有人も木々のあいだを駆け抜け、光線の直撃を避けながら戦う。
 潜んだディアボロスに対し、アヴァタール級は、無数の葉を舞い上がらせて妨害してきた。
 乱雑につくったとはいえ、地の利は農園世話係にあるようだ。
 果敢にも、有人は脚を止めないようにし、左手でナイフを投げつけては敵をけん制、右手に魔力を集中させる。攻撃のタイミングを伺った。
 隠れ場所のハニエルも、纏わりつく葉っぱを払いながら耐える。
 フェイントの一本に、ディエリアナの注意が向いた。
「星の光を束ね、疾く走れ、銀の流星!」
 右手に集めた魔力が銀光に輝く槍を形成する。本命の投擲はいまだ。
 黒ドレスの豊かな膨らみのあいだに、穂先が突き立った。
「あ、あああっ!」
 世話係は、胸元をかきむしった。
 槍は実体ではないので、すぐに魔力に還元されるが、純粋な力場がそこに残る。
「知恵ある植物のために奪ってきたものを、あなたから返してもらいますよ」
 有人は、ナイフで自傷した傷を癒す。
 力場が吸い出すのは、フローラリアの生命力。
 倒木の影で、蓑のようにくるまれていたハニエルは、重なる葉っぱを突き破って復活した。
「人間を肥料にしちゃうなんて私達が許さない! やっつけてやるんだから!」
 叫びながら登場し、ずびしっと指を突き付ける。
「ど、どういたしまして。許されたから肥料に、わたくしは許されて……」
 口上へ、『愛情』の姿勢でかえそうと、ディエリアナはしどろもどろになっている。
「えんじぇるびぃーむっ!」
 ハニエルに、問答をする気はさらさらなく、突きつけた指先からは緑色の光線が放たれた。
 撃たれた相手は、黒い布地を燃え上がらせる。
「戦いはもう十分、これで終わらせちゃうよ!」
 さらに、トドメの光線が、植物種族を炭化させていく。
「ああああ、ああ~!」
 ソロモン諸島につくられた、フローラリア農場を世話していたアヴァタール級の一体、ディエリアナは滅びた。
 残ったのは、すでに栄養を抜かれ、無造作に積まれた犠牲者たちだ。

 ディアボロスが農園に集合したときには、育ちかけの『知恵ある植物』はすべて枯れていた。
 この島を新たな妖精郷とする企ては防がれる。
「いっぱいやる事があったけど、何とかなったね!」
 ハニエル・フェニックス(第七の天使・g00897)は、仲間たちと労い合ったが、すぐに畑の周囲へと視線が向く。
「助けられる人は助けられて、それは良かったけど……間に合わなかった人もいるんだよね」
 悔しい。そして赦せない。
 せめて自分たちに出来る仕事をする。
「本当は集落の近くに埋めて上げたいけど、あまり現実的じゃないかな?」
 ハニエルの問いかけに、サヨコが唇を硬く閉ざしたまま頷く。
 遺体は多いものの、奏たちが掘り返した穴は、縦横に100が整列していた。
「幸いと言うか何と言うか、この穴を利用して埋めさせて貰おう。有人くん、また道具を貸してね」
 ハニエルを中心にして、ディアボロスたちは手分けをし、犠牲者の埋葬をすすめた。
 世話係が残した農園の設備を『建造物分解』し、出来た資材で墓標を作る。
「……後は祈りを捧げておこう。この人達がどんな神様を信じてたかとかどんな慣習で埋葬してたかは分からないから、今は私のやり方で我慢してね」
 ヤ・ウマトとの争いは、今後どのような展開をみせるのか。
 沈んだ大陸の伝承、最前線のガラパゴス諸島、はたまた資源を押さえたインドネシア
 ここ、ソロモン諸島には、台湾から連れてこられた難民がおり、フローラリアの犠牲者たちは仮の墓地に眠ることとなった。
「でも祈りは決して無駄にはならないはず。私達は頑張らなきゃね、次の戦いも!」

『チェインパラドクス』(C)大丁/トミーウォーカー

 

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